龍と覇王は天前にて
[1/11]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
洛陽の城。謁見の間に広がる空気はまさしく異質。粘着質を持った気持ちの悪い空気と、突き刺さるような圧力が鬩ぎ合い、居並ぶ文官達は冷や汗を流すモノや、不快気に眉を顰めるモノが多い。
玉座は空席。まだ、そこに腰を下ろす存在は来ていない。
洛陽を守護する禁軍の代表だけが、背筋をしゃんと伸ばして、心地よさそうに立っている二人に恐れ慄きながらも、自身の役割を示すかのように表情を引き締めていた。
「なぁ、曹操。袁家はどう動くと思う?」
言葉を発することすら憚られるはずのその場で、なんのことは無い、と前を向いたまま気楽に話しかける金髪灼眼の女、劉表。
正式な謁見の場であれど、これから行われるは詮議に等しい。帝――――大陸に生きる者達にとって神に等しいその存在に、己の忠を示して潔白を証明する為の一時。
余りに日常的であった為に文官達がざわつき掛けるも、華琳がほんの少し首と目線を動かしただけで、小さく息を呑んだ音が幾つも響く。居並ぶ文官達は蛇に睨まれた蛙のように、瞬きさえ出来ずに硬直させられていた。
「己が任ぜられた地以外の事……外部の事柄など、今この場で話すことでは無い。ただ、お茶とお菓子を用意して、ゆっくりと語らえる席を設けるというなら、話してあげてもいい」
強い態度を示しながらゆるりと受け流すように見えたが、高圧的でありながらも友好を伝えた。
面白い、というように劉表は頬を吊り上げる。
「お前のとこにある名店の菓子、持ってきたんだけど……この後で食うか?」
ピクリ、と華琳の眉が動いた。
劉表の発言は華琳の提案を受けるという事。事前に華琳と孫策に友好関係があるだろう事を分かっていながら……孤立無援で戦うかと思えば、歩み寄る為の小細工も準備済み。それがまた、華琳の心に期待を浮かべさせる。先手を常に打ってくるというよりかは、手を増やす事の出来る引出しが多いと感じた。
「考えておきましょう」
短く、簡潔に返答を行って思考を巡らせる……間もなく、空気が変わった。
上座の袖に居た文官が頭を垂れた。それだけで、並み居る人々の放つ意思が凍りつく。
久しいな……と零したのは劉表であった。楽しげに、嬉しげに、口元を引き裂いて、膝を折って拳を包み頭を垂れた。華琳も倣って、膝を折って拳を包み頭を垂れた。
人々が平服の意を示す其処には、コツ……コツ……と軽く重く、音が響く。一音毎に張りつめ、冷え込んで行く場の空気。首元に刃を突き付けられたような感覚と言えようか、否、触れねば喰われる事の無い強者を前にした感覚が“人”を襲う。
現れたのは小さな少女だった。年端もいかない、触れれば折れてしまいそうな。
腰まで届く白金の髪は美しく輝き、新雪を思わせる肌は透き通って見えた。ただ、蒼天を思わせる瞳には、感情の
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ