第十三話 幼児期L
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今度は先ほどよりも、はっきりと名前を呼ぶ。それにびくりっ、と肩を跳ねさせ、アルヴィンは驚いたようにこちらに振り向いた。その顔は泣いてはいない。彼は目を大きく見開き、途端にあわあわと慌てたように何かをポケットの中に入れたり、立ち上がる時にランプを倒してしまい、また慌てだす。
こんなに落ち着きのないアルヴィンは久しぶりに見たかもしれない。それに小さく笑ってしまったが、それでも先ほどの様子がプレシアには忘れられなかった。彼女はベランダに出て、落ち着くように息子の背中を優しく撫でた。
「あ、あー。うん、えっとこんばんは? 母さん」
「その挨拶は何か違う気がするけど…。眠れなかったの?」
「あー、確かにそうかも。いやー、ちょっとね。星がすげぇ綺麗でさ、つい見ちゃってた」
そう言って、アルヴィンは笑いながら手で頭をかく。アルヴィンはよく笑う。本人もそうだが、突拍子もないことをして、家族を笑わしてくれる。アリシアの面倒も嫌がることなく、しっかりお兄ちゃんをしてくれている。でも心のどこかでプレシアは、今の笑顔はいつもとは違う気がすると感じていた。
「そう。ねぇ、アルヴィン。どうかしたの? 何かあった?」
「いや、なんでもないけど。俺にだって、静かに星を見てたそがれる、クール系のかっこよさがあっただけだよ?」
アルヴィンは、新しい属性を俺は手に入れた! と喜ぶ。いつも通りのような姿。プレシアは思い出す。昔から周りを振り回したり、迷惑をかけてしまう困った息子。どこでそんな言葉覚えてきたの? と真剣に悩んでしまう時もあった。
それでも、誰よりも周りに敏感だった。困っていたら、そっと何でもないように手を差し出せる。だけど、逆に自分から周りに手を伸ばすのは下手な子だった。
「夜更かししてごめんね。もう寝よっか、母さ―――」
プレシアはアルヴィンの言葉が終わる前に、ぎゅっとただ抱きしめた。いきなりの行動に、アルヴィンも面喰らい呆けるしかなく、混乱しながらもそれを受け入れるしかなかった。
アルヴィンが頑固なことを、プレシアは知っていた。本当に悩んでいることは言わない、むしろ気付かれないように隠すような子どもだったと思いだした。3年前、離婚したプレシアたちを受け入れたアルヴィン。あの時ただ一言、「そっか」と笑ってうなずいていた。
その時の笑顔と似ていたのだ。もともと聡いところがあった。何も思わないはずはないのに、何も言わず、笑っていた少年。あの時は結局甘えてしまった。だからこそ、プレシアは今抱きしめる。せめて母親として、この子たちの大好きなお母さんとして、ちゃんと傍にいると伝えたかった。
「……ほんと、大丈夫なんだ。ただ、いっぱい頭の中で考えすぎていただけみたい」
「アルヴィン
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