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梅雨のはなし
嫌いだけど、
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がいいかもしれない。

「ここでは流石にやめてください」

白澤の何か言いたげな視線に気づいたのか、鬼灯は釘を差した。

そう言われるだろうことを予想していた白澤は、物欲しそうな顔をいつもの軽薄な表情に戻すと、鬼灯から少し離れた。

「約束だったでしょ?」

そう言って、ヒトの輪郭をぼやけさせる。

白い獣、神獣・白澤が姿を現した。

「さぁ、僕のところにおいで」

神獣化した白澤は、閻魔大王が乗れるほど大きい。しゃがめば鬼灯も腹の下に入れるだろう。

しかし鬼灯はそうはせずに、少し雨に濡れた獣の、背中の角を避けて腰掛けた。

「あれはただの冗談です。それくらい察しなさい。濡れるなら2人で、です」

獣の姿でもはっきりわかるほどに笑顔になった白澤は、そのままふわりと地面を離れる。

「白澤さん」

「うん?」

「私は、雨は嫌いではありません」

「僕はあんまり好きじゃないな」

「理由を聞いてもいいですか」

「…雨に濡れたお前が、消えそうな気がした。雨が、僕からお前を奪っていくような気がした」

白澤は、ははは、と笑った。

「まぁ、そんなことにはならないし、させないから気にはしないよ。それに雨は恵みだからね、好きじゃないけど嫌いでもない」

「そうですか」

「逆にさ、なんでお前は雨が好きなの」

「地獄には、雨が降らないんです」

「知ってるよ」

「だから、雨に濡れるという感覚が、たまになら悪くないという気にさせる」

雨が少し小雨になった。
2人はもうかなり濡れている。

「傘を差すのも良いですが、それでは雨に触れられないでしょう。」

「そうだね。…もう着くよ」

そう鬼灯に声をかけると、分かっています、と返ってきた。

「ねぇ、おかけさまでお前も僕もびしょ濡れだよ。これはさ、僕にも仕返し権があるよね」

「認めません」

「認めないことを認めないね!帰ったら一緒に風呂はいれ」

「だが、断る」

「いーや、お前は入るね!」

「その理由は!」

「え〜それはねぇ…」

小雨だった雨がやんだ。
曇天の間から光が射し、鬼灯が綺麗だと言った濡れた仙桃の葉の露を煌めかせた。

雨は好きではないが、やはり嫌いでもない。
こんな雨の日ならたまには良いと、白澤は思った。

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