第三十四話 憧憬
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ミレイはアベルを追いかけた。
「アベル、どこにいるのよ。いきなり部屋を飛び出したりなんかして」
そう言いつつミレイはアベルが曲がったと思われる廊下を曲がった。
「!アベルいた」
アベルは廊下に置いてある椅子に座っていた。どこか沈み込んでいるようにも見える。
「アベル。どうかした?」
アベルはしばらく黙っていたがやがて口を開いた。
「わからないんだ。父への気持ちが」
「アベル……」
「父さんは僕に色々な事を教えてくれた。呪文も、武器の使い方も、他の事も。……けど自分の事は教えてくれなかった!何で弟がいた事を教えてくれなかった。何で自分が国王である事を教えてくれなかった。何で僕の城での記憶を夢だと一蹴した。母を助けださなきゃいけないのに、妻が妊娠してさらにたいへんになって。そんな人間に来たばかりの国を治めろ?ふざけるなよ!今あることで精一杯な人間に他に何をしろって言うんだよ。こんな状況でいきなり国なんて治められるわけないだろ!」
アベルはそう叫ぶと足音荒く立ち去ってしまった。
「アベルがあんなに感情を剥き出しにして怒るなんて」
アベルは怒るにせよ静かな怒りで、あのように感情に振り回された怒りは初めて見た。
「とりあえず誰かに相談しなくちゃな」
ミレイはそう言うともと居たところへと戻っていった。
*
「……てな事があったのよ」
私はベッドにいるビアンカにリンゴを切りながら、アベルの様子を話した。
「アベルがそんな風に怒るなんて珍しいわね」
「やっぱビアンカもそう思うか」
アベルがあんなに怒っていたのはきっと父親……パパスさんに裏切られたと感じたからだろう。『可愛さ余って憎さ百倍』というか……。尊敬していた人が自分に対して秘密を持っていた事に。しかも打ち明けられないような秘密ならまだしも、打ち明けたって何の問題もないような事を秘密にして黙っていたこと。
それにアベルが色々たいへんな時に王位を継ぐように頼んだオジロンさんにも怒っているのだろう。アベルはもう十分な程にたいへんな目にあったというのに更に王位継承という問題があるのだから。流石にアベルは怒っていいと思う。
「ま、けどアベルなら心配ないと思うわ」
笑いながらビアンカは言った。
「何で?」
「私にはわかるの。あいつはどんな問題が目の前にあっても一つずつ片付けられる人間なのよ。アベルを幼少期から知ってる私よ?きっとアベルは乗り越えられるわ」
「そうだね。ビアンカ」
「さて、ミレイ。話に集中するのはいいことだけど手の果物ナイフは?」
「あっ」
話に集中しすぎて意識してなかった。手を見ると果物ナイフはリンゴではなく私の手を
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