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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十一話 苗川攻防戦 其の三
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殿!」
 バルクホルンの忠勇な従者であるアンリが助けに出てきてくれた――が
 彼に向かい猛獣が凄まじい咆哮をあげるとアンリが一瞬、身を竦ませ、馬も恐慌状態に陥った。
 主力と合流すべく突撃を行った剣虎兵部隊がそれを見逃さず、馬の尻を斬り付ける。
「若殿ォ!!」
 制御を失い馬は後方へ逃げて行く。

「クッ・・・」
 バルクホルンの騎馬もその咆哮で竦んでしまい、隕鉄が飛び掛かり牙を突き立て、馬が暴れだす!
 思わず槍斧を落とし両手で手綱を握ると新城は鋭剣で足を斬りつける、彼の足を傷つけた剣がそのまま馬の腹突き刺さった。

「グォッ・・・」
 人馬が共に痛みで悶える、こうなるといかに練達の騎士と云えどもバランスを崩し、 落馬してしまう。
 全身に衝撃が奔り、強制的に肺の中身が叩き出される。
「ガッ・・・」
 馬は苦痛のあまりに逃げ出すのを朦朧とした意識の中で感じ取りながらバルクホルンは考える。

 ――蛮兵達に取り囲まれ、私は未だ起き上がれない。
 ――あぁ、そうか、私は――死ぬのか――
猛獣使いが兵達に指示を出す。バルクホルンは乱暴に、だが生かされたまま担ぎ上げられた。



同日 午後第一刻
独立捜索剣虎兵第十一大隊 側道防衛陣地
側道方面防衛隊 隊長 新城直衛大尉


「損害は?」
 漆原が答える。
「予備隊は38名です。」
「本部付剣虎兵隊、損害8名、猫二匹です。
最後に態勢を立て直されたのが辛いですね」
 隕鉄を従えて西田も答える。

 ――あれにはぞっとした。ただでさえ戦力が不足しているのだ。
成功していたら大隊の将校二人が死んでいたのだ、漆原一人で此方の陣地を統轄するのは困難だ。馬防柵も破壊されている、そこに後方で待機していた大隊残存戦力が襲いかかるとなると十中八九、突破されるだろう。
本部を潰され大隊は全滅すら有り得る。

捕虜となった士官を見ると大勝負を挑むだけあって勇壮な顔つきをしている。
―― 一応は豊久の注文通り将校を捕らえた、か。

「増谷曹長、金森二等兵は砲兵の配置場所付近で待機。
渡河した敵部隊の動静を監視してくれ。
他の部隊は一時後退し警戒態勢、捕虜を本部まで輸送する際に大隊長殿に補給と陣地の修復用に工兵の増援を要請するように」


同日 午後第二刻
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊本部
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長 馬堂豊久少佐


目の前の蒼白ながらも勇武の相を保っている騎士を観察しながら大隊長・馬堂豊久は、数年前に使ったきりの〈帝国〉公用語を脳内から引きずり出した。
「〈皇国〉陸軍独立捜索剣虎兵第十一大隊指揮官 馬堂豊久少佐です。
〈大協約〉の保障する貴官の俘虜としての権利の遵守に全力を尽くす事を誓約します。
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