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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
25.July・Afternoon:『Philadelphia experiment』
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だ。彼女の肝煎りとなれば、黒子は受け取らざるを得ない。実際は『知っている』だけだが。
 そこまで判断して美琴に声を掛けた。黒子が付いてくる事、勘違いする事を見越しての作戦である。

──男としては、情けないの極みだけどな……まぁ、今はこれで仕方ない。

 ついっと視線を逸らし、若干頬を赤らめて。礼儀正しく両手で受け取った彼女。
 そして、照れたような困ったような表情で。身長差から、自然、上目遣いに。

「あ……ありがとうございます、ですの」

 辛うじて聞こえたほどに小さい、蚊の鳴くような声で。そう、口にしたのだった。


………………
…………
……


飢える(イア)────」

 風が吹いている。ひゅう、ひゅる、と。耳朶に、名状しがたき風斬音を残して。まるで、何かを耳打つかのように、何かを囁きかけるかのように。
 だが、耳を貸す者など誰も居ない。否、()()()()()()()()。その風がこの数区画全てに吹き荒び、荒天を人々に知らせている事に。

飢える(イア)飢える(イア)────」

 同じく、入道雲が山の稜線から頭を出す。蛸のように頭でっかちな入道、猛り狂うかの如く、黒く隆々と。ゴロゴロ、ゴウゴウ、と。雷鳴と、饐えた土の臭いを忍ばせて。
 だが、気に留める者など誰も居ない。否、()()()()()()()()。その雨雲が、『樹形図の設計者(ツリー・ダイアグラム)』の予報通りに人々に家路を急がせている事には。

「「飢える(イア)飢える(イア)飢える(イア)────!!」」

 それは、風と雨。合わさって曰く、嵐と呼ばれるもの。川に架かる橋桁に凭れ掛かる黒い雨合羽(レインコート)の褐色髪の美青年が陰鬱に水面に向かい呪うように呟くものと。
 風力発電塔の頂きに座した、黄色い襤褸の外套を纏う翠銀髪の美少女が大空に向かい燦然と、祈るように謳うもの。

「────“水神クタアト(クタアト=アクアディンゲン)”!」

 悍ましき水妖の気配を溢れさせる、人面皮の装丁の魔導書“水神クタアト(クタアト=アクアディンゲン)”と。

「────“■■■■(■・■■■・■■・■■■■)”!」

 忌まわしき戯曲(かぜ)の音色を放つ『黄色い装丁の魔導書』を携える、その二人の魔導師に喚ばれしもの。
 人の関心を払い、無意識を呼ぶもの。ステイルが仕掛けたものと同じ、『結界』と、数々の秘術に呼ばれるものだ。

 人々は風に背中を押されるように、夕立の気配に家路を急ぐ。彼らの予定通りに。残り、十五分。最後の追い込みに。
 畏れる師の命で、敬愛する師の為に。範囲は最小
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