暁 〜小説投稿サイト〜
ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第14話 愛されし者
[3/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
学んだのか。確かに士官学校には艦隊運用術・用兵理論等の学科はある。しかし実際に艦隊を動かすとなると、これがなかなか上手くいかない。フィッシャー中佐に教えられながら作成した考課表を見てもそれは明らかだ。

 再編成されたばかりの部隊だと、艦のカタログデータの半分以下の速度でしか集団行動が出来ない。出来るようになる為に訓練をしているのだから当然といえば当然なのだが、艦隊運用というものが指揮官や幕僚集団、艦長などの腕に左右されるのであれば、教科書にはないコツのようなモノがあるのかもしれない。

 そのコツがいつかは役立つかもしれない、と参考までにその道の『名人』に聞いてみたのだが、俺に問われたフィッシャー中佐はというと、口元にサンドイッチを運んだままの姿で固まってしまっていた。

「中佐?」
「……二週間か。これを早いと見るか、遅いと見るかは判断が難しいところだ」
 数秒後、ようやく筋肉に信号が行ったフィッシャー中佐は、サンドイッチを皿に戻し、紅茶カップを手にとって一口傾けてからそう呟いた。
「いや、済まない。でもどうして少尉はそう考えたのかな?」
「あ、いや……それは……」

 俺は自分の考え方を一応述べた。『コツ』という言葉に、フィッシャー中佐は小さく眉を動かし苦笑したが、それ以外ではずっと黙ったままだった。彼が口を開いたのは、たっぷり一分経過してからのことだった。

「さすが、と少尉には言いたいところだが、艦隊運用に特別な『コツ』というものは存在しない」
 フィッシャー中佐の声は、いつもよりも深くそして低い。俺は思わず背筋に力を入れざるを得ない。
「艦隊運用を上達させるのに必要な要素は大きく分けて三つあると私は思っている。適切で素早い空間把握と、部隊を構成する艦艇性能の理解、艦艇を統率する下級指揮官あるいは艦長の力量の把握だ……それに加えてある程度の作戦構築能力と、下級指揮官同士の相互理解と、適切で効率的な燃料の管理術があれば、よりスムーズな運用が可能になる」

 艦艇が戦列を組み直して別の陣形を形成するに際して、動く先の空間に余裕があるか、空間に障害物がないかを把握するのはまず当然のことである。個艦性能以上の運動を求めるのは、特殊な外的要因がない限り意味のないこと。土俵が整えばあとは下級指揮官や艦長が、上級指揮官の指示に適切な行動で応えればよい。上級指揮官に作戦構築能力があれば部隊移動の時間や空間に余裕が産まれるし、下級指揮官同士の相互理解があれば交叉する移動経路となっても衝突せずスムーズに動ける。さらに燃料を効率的に管理することが出来れば、より長時間広範囲にわたる運用が可能となるだろう。

「もっとも、私も本に書けるほど艦隊運用に自信をもっているわけではない。ただ今までの航法・航海士官としての実戦経験や『訓練査閲官
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ