第13話 査閲部 着任
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してフィッシャーに敬礼した。上司より遅い登庁など、軍隊組織に限らず本来許されることではない。それくらいは分かっているつもりで定時の二時間前に登庁したわけだが、それを上司達は上回るのだ。
「気にしないことだよ。そして失敗しても、決して顔には出さないように」
答礼の際もフィッシャーの顔は穏やかで落ち着いている。それが逆に俺は恐ろしい。ユリアンが「地味が軍服を着て物陰に黙って立っているような」人物だと評価していたが、それはただの外面だけだ。彼の実力と強さはその皮膚と脳みその裏側に隠されている。
査閲部長室をフィッシャーがノックし、扉が開かれた後も、俺はただただ無言でついて行くしかない。
それほど広くない査閲部長のオフィスには、やはり二人の中年男性将官が立っていた。席に座っている太った中将がクレブス中将で、立って腕を組んでいるのがハンシェル准将だろう。二人とも俺を静かな目で見つめている。俺が礼法授業を一つ一つ思い出しながら、気合いを入れて敬礼すると、二人の将官も答礼を返してくる。二人とも完璧な敬礼でありながら、ちっとも身体が強ばって見えない。
「〇六一二時に登庁ならまず合格だ」
俺に対するクレブス中将の最初の言葉がそれで、
「あと三〇分は早く来てもらわんとな」
と応えたのがハンシェル准将だった。二人とも原作には登場しない。クレブス中将は定年間近から見て専科学校出身の士官だし、ハンシェル准将は兵卒からの叩き上げだろう。言葉に遠慮がない。
「査閲官は常に他者から監視されていると言っても過言ではない職務だ。必要以上に厳しくする必要はないが、つけいる隙を与える必要はない」
「は!! よろしくご指導願います」
「うむ」
クレブス中将は小さく頷くと、手を組んで俺を見上げた。
「正直言うとな、少尉。この査察部に士官学校を卒業したばかりの少尉が着任したことに我々も戸惑っている」
「はっ……」
「人事部にも一度確認したが、間違いはないとのことだ。だが実戦経験のない貴官に、訓練評価やその統計が出来るはずもないし、我々としても期待していない。しばらくはフィッシャー中佐に同行してもらう。いいな」
「承知しました」
「……なるほど、素直であるのはよい素質だ。査閲官としての適性はともかく、な」
そう言うと中将は立ち上がり、ハンシェル准将から受け取った辞令と階級章を俺に手渡した。
「士官学校首席卒の貴官のキャリアが、この場から始まったと誇れるよう、職務に精励することを望む」
「はっ」
俺の手に少し厚みを感じる辞令と、クリップ付けされた少尉の襟章が渡され、フィッシャー中佐が襟章を取ると、俺のジャケットの右襟に取り付けた。これで儀式は終わりだ。俺は二人の将官に敬礼し、フィッシャー中佐と共に執務室を出る。
「クレブス中
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