第13話 査閲部 着任
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が原因の胃もたれを感じていた。
胃をさすりつつ、俺はハイネセンポリスからの軍中枢区画行き直通リニアに乗り、地上五五階の巨大な外観ではなく、中枢とも言える地下四〇階のホームで降りる。扉が開き、例の濃緑色のジャケットが一斉にホームへと降りる様は壮観だったが、その中でもポツポツと何処へ行ったらいいか分からない、といったおのぼりさんが見受けられる。……そのほとんどが新着任の同期生だった。“事前に調べてこいよ”とも思うが、二〇両編成に詰め込まれた四〇〇〇人近い降車客を前に圧倒されたのだろう。
その人混みをかき分けるように、俺は地下六五階にある査閲部統計課へと向かう。いざとなったら立て籠もれるよう複雑に入り組んだ通路を抜け、幾つかのセキュリティーゲートをくぐり抜けると、その場所はあった。鬼査閲官のたむろす地獄のようなドンヨリとした空間かと思いきや、地下なのに天井は高く、床は中彩色の鼠色で壁と天井は押さえられた温白色で、非常に落ち着いたオフィスだった。受付のようなものはなく、映像の出ない前世では使い慣れたオフィス電話が一台、入口付近の小さなテーブルに置かれている。思い出すかのように外来受付番号をプッシュする。
「査閲部統計課です」
電話に出てきた女性の声は、必要以上の言葉は喋りません、と自己主張していた。
「ご用件を」
「本日、貴課に着任いたしましたヴィクトール=ボロディン少尉であります」
「承知しました。その場でお待ちを」
そう言っただけで女性は電話を切る。少なくとも電話口の女性がコールセンターの指導を受けたことがないのは確かだろう。俺は今後の職場環境のクールさを想像し小さく溜息をついていると、オフィスの向こう側から俺に向かってゆっくり近づいてくる、白みがかったグレーの髪と同じ色の小さな髭の、やや痩せた長身の中年男性が見える。
俺は今、生きている伝説を見ているのか……呆然として立ちつくし、緊張から唾が音を立てて喉奥を落ちていく。
『生きた航路図』『ヤンの片足』『艦隊運用の名人』……彼、エドウィン=フィッシャーがいなければヤン艦隊は迷子になるし、ヤンの奇策を実行することは出来なかっただろう。彼がいたからこそヤン艦隊は不敗神話を保ち続けられたのだ。だが何故、その彼が統合作戦本部の、しかも嫌われ者の査閲部にいるのだろうか。
「お待たせしましたかな」
まさに紳士そのもの。グレゴリー叔父の上を行くフィッシャー『中佐』の穏やかな問いかけに、俺はイイエとしか応えられない。俺の緊張を新任ゆえと理解したフィッシャーは「そうでしょう」と小さく囁いてから頷く。
「査閲部長のクレブス中将閣下と、統計課のハンシェル准将が、君の到着を待っているよ」
「それは……申し訳ありませんでした」
俺は鳴らすくらい強く踵を合わせ、背筋を伸ば
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