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異伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(ヴァレンシュタイン伝)
異聞 第四次ティアマト会戦(その4)
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間が有って一人の男性が困ったような表情で彼女に近づく。大柄、たくましい体格をしている。オレンジ色の髪の毛が印象的な士官だ。この男がビッテンフェルトと呼ばれた人物なのだろう。まだ若い、しかし提督と呼ばれたところを見るとかなり有能なはずだ。
エーリカが皿の上のパイをフォークで切り分けた。その一かけらをフォークに乗せる。
『はい、あーん』
ビッテンフェルト提督が困惑している。まさかここで“あーん”が出るとは思わなかったに違いない。パイを見てエーリカを見てそしてこちらを見た。多分カメラを見たのだろう。
『あーん』
フォークを持ってエーリカがビッテンフェルト提督に迫る。ニコニコして食べてもらえると確信しきった表情だ。どうする? 食べるのか? それとも拒むのか……。しかしあれを拒むのは難しいだろう。万一彼女に泣かれたらどうするのだ。
『あ、いや、待て』
『あーん』
『あ、その』
『あーん』
『……』
食べるのか? 食べるのか? 食べた! ついに食べた! 艦橋でどよめきが起きた。“食べたぞ!”、“食べた!”、“なんて奴だ! 許せん!”
『美味しいですか?』
『うむ、美味しい』
ビッテンフェルト提督は蕩けそうな顔をしている。その表情にまたどよめきが起こった。“美味しいだと、許せん!”、その時だった、オペレータが悲鳴のような声を上げた。
「て、帝国軍左翼部隊が進路方向を変えました!」
「なに!」
オペレータの報告に戦術シミュレーションのモニターを見た。確かに左翼部隊が方向を変えている。だが、これは……。
「方向を変えたのは何時だ!」
「そ、それが」
報告を上げたオペレータが俯く。彼だけではない、他のオペレータも私と視線を合わせようとはしない……。
「皆、あの放送に気を取られたという事か」
帝国軍左翼部隊は同盟軍右翼の正面に居るはずだった。だが彼らは右に回頭し既に同盟軍の左翼の前を走り抜けようとしている。回頭して中央部隊の前を通り過ぎるまで誰も気付かなかった……。
いや、前線では気付いた人間もいたのかもしれない、しかし総司令部は気付かなかった。当然ではあるが指示も出さなかった。敵の左翼は何事もなく通りすぎてゆく。このままでいけば同盟軍はあの部隊にこちらの左翼を側面から攻撃されることになるだろう。スクリーンではビッテンフェルト提督がアップルパイを食べている。いや食べさせてもらっている。
ロボス元帥はスクリーンを見ていた。
「総司令官閣下」
「何事だ、グリーンヒル参謀長」
「してやられました。帝国軍はこの放送を使って我々の注意を逸らしたのです。これは帝国軍のハニートラップです」
口中が苦い。これ程までに苦い報告をした記憶が私にはなかった。
ロボス元帥が私を見た。叱責を覚悟した。
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