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異伝 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(ヴァレンシュタイン伝)
異聞 第四次ティアマト会戦(その4)
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るとは……。卿は見かけによらず凄腕のようだ。一度コツを教えて貰わなければならん。
「誰か、この放送を録画してくれ」

「録画するのでありますか、ミューゼル提督」
「そうだ、後で姉上にお見せする。少佐のアップルパイは絶品だ。姉上も喜んでくれるだろう」
私の問いかけにミューゼル提督はあっさりと答えた。

大丈夫だろうか? グリューネワルト伯爵夫人はヴァレンシュタイン少佐を見てどう思うだろう。妙な勘違いをして次に提督に遭う時に伯爵夫人がメガネやネコ耳を付けたりしないだろうか? 髪形をツインテールにしたりしないだろうか? それはそれで有りかもしれないが、姉弟でやるのはどうだろう?

録画を指示すると提督が話しかけてきた。
「メックリンガー准将、ビッテンフェルト少将がこのタイミングで放送を行った事に意味が有ると思うか?」
意味か……。調教の成果を見せたい……、いや、そうではないな、自分の趣味を皆に広めたい、だろうか?

「味方の士気を上げようと言うのでしょうか?」
「なるほど、では敵に対しては?」
「……敵の意表を突く、という事でしょう」
「うむ、私もそう思う。やるな、ビッテンフェルト」

良かった、もう少しでお馬鹿な答えを返すところだった。どうやら私は間一髪危機を切り抜けたらしい。ミューゼル提督は嬉しそうにスクリーンを見ている。何が楽しいのだろう、少佐のアップルパイだろうか、それともビッテンフェルト少将の事か……。

あるいは提督もヴァレンシュタイン少佐に萌えているのだろうか……。そしてそれを演出したビッテンフェルト少将を面白がっている? 有り得ない事ではないだろう。我々は危険な状況に有る、にも拘らず提督の機嫌は非常に良いのだ。

フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト少将か……。何度か彼の所でお茶を飲んだ事が有る。話をした限りでは外見通り陣頭の猛将のように思えた。しかし本当は細やかな思考をする男なのかもしれない。今見せている陣頭の猛将という姿は擬態ということも有り得るだろう。部下を統率し指揮するための擬態……。彼の本質は勇よりも知を好むのかもしれない。

先程のミュッケンベルガー元帥の心理を読んだのもヴァレンシュタイン少佐と言っていたが本当にそうだろうか? あるいは二人で読んだ、または彼一人で読んだ事を少佐の名前を使ったのではないだろうか……。知者が必ずしも好まれるわけではない、切れすぎる刃は周囲から恐れられる事が多々あるのだ。

むしろ戦場の勇者であると判断された方が侮られる事は有っても恐れられる事は無いだろう。単純な男だと判断された方が周囲からは警戒されずに済む。今も多くの士官がこの放送を楽しみながらビッテンフェルトは何を考えているのかと呆れているだろう。滑稽には思っても決して彼を警戒したりはしない……。

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