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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第12話 ささやかな家族の夜
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ゴリー叔父の焦茶の瞳は酔いから冷め、急激に細くなった。
「誰の差し金だか非常に疑いたくなる赴任先だな。士官学校を卒業したばかりのヒヨッコ少尉に、百戦錬磨の部隊査閲をやらせようというのは……」

 そう。最初に赴任する任地が記入されている卒業証書を手にとった時、俺は自分の目を疑った。

 統合作戦本部下の査閲部といえば、国内において戦闘以外で軍を管理運用する部門だ。戦場で武勲を上げることはない。だが同盟国内宇宙航路で重大事故が発生した場合の救難や現場統制、防衛部から申請された補給艦隊を護衛する部隊の手配、そしてこれが査閲の本分であるが、国内全ての部隊に対する装備点検・訓練における全ての手配と指導および評価を行う部署だ。

 ぶっちゃけ部隊風紀・法務を担当するのが憲兵司令部で、それ以外の全てをチェックするのが査閲部になる。実戦部隊の棚や襖に指を這わせ、「おたくの部隊指導・訓練はまったくろくでもないですな」と言うのが仕事だ。はっきり言って嫌われ者である。戦いの場にも出ないクセに偉そうに実戦(笑)指導する恥知らずなどと陰口をたたかれる職域だ。

 だから査閲部に在籍している者の大半が実戦経験者で揃えられている。それも下士官・兵卒から苦労して這い上がった猛者士官ばかりだ。名を聞いただけで戦場を思い浮かべられる英雄的人物も多い。それくらいの者でないと、査閲を受けた側の不満が押さえきれない場合もあるのだ。

 そんな鬼ばかりで地獄同然の職場に、士官学校首席卒業(実戦経験なし)を放り込む。今の人事部長が誰だか知らないが、手配した人間ははっきり言ってバカなのか、それとも『誰かの強い推薦があったので』やむを得ず配置したのか。グレゴリー叔父の言うとおり、こんな初歩的な手配ミスを犯すほど人事部は劣化していないはずだから……
「士官学校校長室に白いペンキを詰めた家屋破壊弾を撃ち込んでやろうか……」
「グレゴリー、悪口は程々にしなさい。子供達にうつるから」
「だがな……」
「いいじゃないですか。ヴィクトールが統合作戦本部に勤めるんだから、オークリッジから通えるんですし」
 レーナ叔母さんは、結局オイスターソースを口の周りにベッタリつけたラリサの口を拭きながら応えた。
「ましてヴィクが戦場に出なくてすむのですから、シトレ中将には感謝しないと……」

 叔母さんの心からの言葉に、俺は悄然とせざるを得なかった。グレゴリー叔父も反論することなく唇を小さく噛み、目を閉じている。

 俺の実父アントンもグレゴリー叔父も、戦略研究科を優秀な成績で卒業し、戦場では武勲を、内勤では堅実に功績を上げて、かなり早く出世街道を進んできた。功績を挙げるということは、それなりの危険を伴うものだ。グレゴリー叔父はまだ三七歳なのに既に六〇近い戦地に赴いていたし、父アントンは戦
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