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乱世の確率事象改変
覇王居らずとも捧ぐは変わらず
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 城壁の上、ゆらりと黒い影が一つ。前後左右の人の群れを見渡してから、彼は春蘭に目を落とした。

「徐公明よ! 名代の務め、ご苦労であった! 主から命を受けし夏候元譲がこれよりその任を受け持つ! 城門を開けよ!」

 全軍に響き渡る大きな声が、その場の雰囲気を弓弦の如く張りつめさせ、端の一人まで背筋を伸ばさせる。
 対して、すっと目を細めた秋斗は動かず。くくっと喉を鳴らして口を引き裂いた。
 その不敵な笑みは、誰の姿と重なるか。

「……元譲、お前さんの声は良く響くなぁ」

 静寂が行き渡った頃合いを見てのんびりと言う。春蘭は眉根を不思議そうに寄せ、堅苦しい形式も忘れていつも通りに話し出した。

「だからどうした? ほら、早く城門を開けろ。他の場所への振り分けもしなければならんのだぞ?」
「ああ、城門ね。開けてもいいけど……まだ名代は俺だ。曹操殿より戦場を預かりし責、決して軽くは無い。……一兵卒に至るまで、曹操軍たる証を示してみせろ」

 見下し、は……と呆れの吐息を付いて流れた声に、春蘭は苛立ちが全面に浮かぶ。されども、華琳が居ない事で兵達が浮足立っていると分かっているから、何も言えない。
 兵達の大半はゴクリと生唾を呑み込んだ。彼の後ろに黒き麒麟の影を見ていた。
 直ぐに、軍師の二人は目を細める。
 此処で春蘭が素直に従ってしまえば、秋斗の方が立場が上だと認識される事になる。それはしてはならない。
 曹操軍に於いて、黒麒麟の名は最高でも春蘭と同程度に抑える事が最良。たかが客将の身なれど求心力は絶大である為に、間違っても華琳と同等にさせてはならないのだ。
 厭らしい一手だと感じながら顔を蒼褪めさせた。春蘭に駆け引きをさせるのは余りに酷ではないか、と。
 ただ、彼女達は見誤っていた。華琳の武の片腕はもう一つある……それも器用で、合わせる事の上手い腕が。

「ふふ……曹操様が居らぬからといって貴様が我らの主ではあるまいに。貴様の方こそ軽々しく命じるな、無礼が過ぎるぞ、黒麒麟」

 涼やかに流れる声は殺気を以って放たれた。左目を細め、片側の頬を吊り上げて背中の弓を今にも引き抜かんとする秋蘭によって。
 まるで黒麒麟が主であるかのように錯覚させられそうになっていた兵達を瞬時に引き戻していく。
 春蘭は妹の咄嗟の返しに振り向きそうになるがどうにか秋斗を睨み続けていた。

――さすが妙才。よく合わせてくれる。

 秋斗はより一層笑みを深めて、楽しそうに言葉を紡いでいった。

「クク、お前さんらの主になったつもりはねぇよ。客分の身に過ぎた役割を与えて貰ったんだ。その責を果たしたくてな……。
 元譲、此処に率いて来たのは想いを同じくする曹操軍、だろ?」
「当たり前だろう! “私と同じく、華琳様に信頼と期
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