覇王居らずとも捧ぐは変わらず
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者を失わせる方法が一番手っ取り早い。
何より、曹孟徳は帝を手中に収めているのだから、彼女が負けるとは如何なモノか。大陸を巻き込んだ連合を思い起こせば言うに及ばず。
その点で言えば……劉表の提案は曹操軍側にとっても利の多いモノであった。
三つの大きな地を任されている為政者が洛陽に集まれば、安易に帝の奪取は望めない。華琳が居るから洛陽を攻める、なんて事は出来るわけも無い。あの戦火は民の記憶に新しいが故に。他勢力の動向と報復、急な連携をも警戒するが故に。
行ってしまえば絡み合った糸が一斉に引かれ、袁家の名は泥の中に沈み、民も有力者も他の強力な勢力も、全てが敵に回る事になるのだ。
劉表の策略によってもはや言い訳は効かなくなった。国を盗んだと言われずに、傲慢ながらも声高らかに時代の移り変わりを宣言するには後が無い。
戦争という命を対価とした外交手段を以って、全ての人々に袁家が天に上る様を見せつけなければならない。
稟は思考を回す内に金髪灼眼の悪龍を思い出していたが……それよりも恐ろしい存在が、居た。
砦の状態を見ただけで、背に冷たい悪寒が走った。気味が悪い、得体がしれない、心底から、そう思ってしまった。
「お兄さんと朔夜ちゃんは華琳様の為の戦場を確かに用意しました。でも……」
風の声も僅かに掠れている。
戦の道筋は決めてある。『そうなるように戦を動かすのが今回の軍師達の仕事』だから、二人は黒き大徳と賢狼に恐ろしさを感じていた。
本来は此処までの準備をするつもりなど無かった。風も稟も、官渡では秘密兵器の使用で優位性を示し、思い描いている戦絵図を顕現させようとしていたのだ。
投石器があれば櫓破壊が望める。敵兵にも多大な恐怖を与えるは言うまでも無い。しかしこの防衛陣の有様は完全な予想外。彼女達でさえ、狙いの全てが読み取れない。
「敵の思考を縛る為、いえ……深読みさせる為の悪戯、ですか。わけの分からないモノは軍師にとって何より恐ろしい」
「単純に考えると移動櫓など進めなければどうという事は無い、なんて言いたげですけどねー」
「こちらの兵器の詳細がバレていないという事を踏まえて、櫓を使わせずに通常の攻城戦に持っていかせる。そこらへんにある竹や木をただ打ちつけただけでそれをしたわけですが……」
「正直、此処までするなら柵にした方がいいと思いますが……あ、柵なら壊す標的にされやすいからでしょうか」
「それも彼に尋ねてみましょう。とりあえずは城に入ってから、という事で」
会話を打ち切った稟は興味深々であった。コクリと頷いた風も、彼の思惑を聞いてみたいようだった。
到着の為に軍の先頭に居た二人は城門の前に進み出る春蘭を見やった。威風堂々たるその姿は軍を率いるモノに相応しい。背中が語るとはこの事か。
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