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乱世の確率事象改変
覇王居らずとも捧ぐは変わらず
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静かに、すすっと身体を寄せた風は何も言わず、だんまりを決め込んだ。怒ってますよ、とも取れるその対応は、稟の心に少しばかりの焦りを齎す。
 どんな顔をしているのか、こちらを見ているのかいないのか、肩が触れ合うくらいの距離を以って、余計に気になってくるのは必然。怒っているわけがないと分かっていながらも……である。
 我慢比べ……そう感じて幾分後、降参、というように稟は風を見た。

「……くー」

 こっくりこっくりと船を漕いで寝ている親友が其処に居る。むにゃむにゃと口を動かし、寝言でも零してしまいそう。
 こめかみにまた青筋を浮かばせた稟の怒りの目覚ましが、朝の陽ざしを背に受けた軍中央に響き渡った。

 そんな彼女は、親友の緩さによってが不安が吹き飛んでいた事に、感謝を心の内で呟いていた。




 †




 官渡に辿り着いた曹操軍は付近の様相に唖然としていた。
 城壁の周辺二十丈余りには幾本も等間隔で列を為して打ち付けられた竹や木。列の端の太い竹には長い笹の葉が旗の如く風に流れていた。兵列を整えていなければ安易な突撃など出来はしないだろう。先の戦で用いられた袁家の移動櫓など、近付けるには数倍の労力を要する。
 ばらけさせて掘られた浅くも無く深くも無い溝は人が隠れるには足りず、敵兵達の脚をもたつかせ、城壁上から矢の雨を降らせれば容易に防衛戦が行えるのは予想に容易い。
 それらが壁の三方向にある。本拠地と繋がる後方だけには据えられていない。万が一逃げる時に逃げ出せなければ最悪の事態となり得るからだ。
 元より全ての兵を官渡の城に居れる事は出来ないのだから、後ろに回り込まれるという考えは放棄していた。大軍を手広く敷く以上は、そうならないように手を打つのが定石である。

 防衛戦を行う腹積もりを全面に押し出しているが、それは既に袁家にも伝わっているだろう。見え見えの餌ではあるが、此処に曹孟徳が居座ればその誘いに乗らざるを得ない。
 互いに戦の連続で物資の不足が目立つからか……否。攻城戦では相手の物資の枯渇を狙うのが常道。わざわざ七面倒くさい攻城戦を選ばずとも、籠られたのなら他に手の打ちようは多々あるはずだ。
 では、敵のいない場所を奪うという空き巣紛いの行いを嫌っているからか……否。袁家がそのような事を嫌うはずも無い。嬉々として本拠地である城を攻めるだろう。
 しかしながらどちらでも無い。
 この官渡でケリを付けなければならない理由は、たった一つ。
 曹孟徳という強大なる為政者を、乱世の敗北者と断定させる為には必須だからである。
 頸の挿げ替えには上に立つ者の力が問われる。覇道を進み行くならば、戦争でねじ伏せてしまえなければ意味が無い。各地にて力添えを謳っている小勢力の主達を丸ごと納得させる為には、主導
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