覇王居らずとも捧ぐは変わらず
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は歓喜だった。今の彼の為には何も出来ないと思っていたけど、少しでも負担を減らしてあげられる。
「分かりました。でも、どうなるかは……」
「構わない。曹操殿が願えば、二人は聞かざるを得ない。曹操殿は俺を……戦の終わりでこの為に盛大に使うつもりだろう。その準備を怠る彼女じゃあない。帝の元に行けば、欲しいモノが示せるから」
私はこの人と“彼女”と同じモノを欲するようになった。
もう一度、表に立つには必要な事だったから……彼を見て、知る事にした。見れば見る程、知れば知る程、彼への理解が深まる。
“彼女”は私が彼の事を理解していくその行いを『喰らっている』と言っていた。私は、黒麒麟と彼を知らぬ間に喰らっていたらしい。
「五人だ」
唐突な発言は何を意味してか、直ぐに分かる。“彼女”と彼が思い描いているカタチだと。
「これからの乱世に必要なモノは五人。忠義の二人、中庸の一人、逆接の二人。それで曹操殿が欲しい軍の支柱は完成される」
「忠臣だけの方が遣り易いですが、敢えてそうするんですね?」
「武官文官に拘らず、組織には反対意見を忍ばせるモノもいないと話にならない。忠義は確かに尊いモノだけど、目を曇らせる事もあるからな。どちらもが止め合えて高め合える方がいいのさ」
人の成長を願う彼らしい意見。武官に於いても、彼の中では文官とも同じ。全ては繋がっている、そういう事だ。
「……夏候元譲、夏候妙才、張文遠、徐公明、そして……」
途切れた言葉の先を、私が言わないといけない。私がこの人を手伝うのは、もう既に決めている。きっと……昔の彼でも、望んだだろう。
――姿を見たことが無い人。私と詠ちゃん達にとって、彼と同じく絶望の始まりの人。ねねちゃんを傍に引き入れるには、本当は入れるべきでは無い人。
「袁家最強の武将……張儁乂」
くしゃり、と頭を撫でられた。
優しい手つきで髪を撫でつけられると、胸がじわりと暖かくなる。
――気にしなくていいですよ? 私は……誰も憎んでません。皆の事は、私が必ず説得してみせますから。
言えないままで、わずかな幸せの温もりは離れて行く。
また、二人で空を見上げた。
この空は美しい。
けれども、瞬刻の一時しか見れない空だからこそ、これほどまでに見惚れてしまう。
まるで今の彼のようだ、と思ってしまったけど、口には出さない。
日が暮れるまで、その色が溶けて消えてしまうまで、私と彼は二人だけで藍橙の空を眺めていた。
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