覇王居らずとも捧ぐは変わらず
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だ、と秋斗と秋蘭は呆れを見せそうになるが、空気がいい具合に変わった事に驚いた。
兵達は声を上げたくて仕方ない。歓喜に弾む心を吐き出したくてどうしようも無くなっていた。
「凪も沙和も……誰か忘れていませんかっちゅうねん! 李典隊! 整ぇ列っ!」
気合が入り過ぎたからか、若干の巻き舌で告げられた命に、ざ……っと城壁の上に兵士達が立ち並んだ。
事前に官渡に赴いていた真桜の部隊。彼らは既に、秋斗と真桜から心を高められている。
「此処での戦の準備はウチらがやったんやから万端やでぇ! なぁ、お前らっ!」
応、と統一された声が上がる。
俺達は仕事を遣り切っているぞ、そう、伝えるように。
兵達は羨ましそうに城壁の上を見上げた。
彼らは主の為に出来る事をずっとして来た。自分達は此処に来るだけでも不安に駆られてしまった。あの誇らしげな笑みを見ろ、自分達はあのように笑えるか……と。
すらり、と背から大剣を抜き放った春蘭は、一度も後ろを振り向かない。只々、秋斗を睨みつけていた。
不敵な笑みで見下ろす秋斗はただ笑う。
「ははっ! さすがは曹操殿が絶対の信を置く武将達か! その意気や良し! ただ、応える声が無いってのは少しばかり寂しいなぁ、元譲?」
最後に纏めきるのは、曹操軍に於いて武の象徴である彼女の役目だ。
意思の光を、命の輝きを、想いの華を……英雄と認められる男に見せつけてやりたい。
兵士達は、春蘭の声を待っていた。曹操軍に於ける忠義と力の証明である彼女の一声を、待っていた。
「ふん……あの大バカ者に教えてやれ! 我ら曹操軍は華琳様に勝利を捧げる為に此処に来た、とな! 華琳様に届かんばかりに……声を上げよ曹操軍!」
大剣、宙を裂き、制止の糸がぷつりと斬れる。
音が弾けた。鼓膜を砕きそうな程の大音量。雄々しく、勇ましい。これから命を燃やす、勇者達の雄叫び。
幾重にも重なった熱く滾るような声は力に溢れ、城壁の上で見やる秋斗に叩きつけられる。
一つの意思に統合された想いの強さは心地いい。耳を抜ける熱さが胸に沸き立たせるのは……不思議な事に悔しさであった。
バレないように手を握る。それでも足りない、足りる訳が無い。
彼が兵士達の為に出来る事は、こうして焚き付けて扇動するくらいしかないのだから。教えられた過去の自分のように戦場を駆けられたら……と思ってしまうのは詮無きこと。
溢れそうになる想いをどうにか飼いならして、秋斗はにやりと笑ってみせた。
「さすがは曹操軍! 忘れる事なかれ! お前さん達は覇王に認められ、期待されているぞ! さあ、戦友の到着だ! 城門を開けろ! 夏候元譲に、覇王から預かりし任をお返し致す!」
漸く開かれた門。潜っていく兵士達の目は自信と
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