覇王居らずとも捧ぐは変わらず
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待を向けられて、御元に勝利を捧げる為に戦場へと向かい来た”誇り高き勇者達だ!」
彼女は素で言った。そのまま、心の赴くままに感情をあらんばかり込めて宣言した。
当然、戦場に向かう前には心持ちを示すのだから今言っても問題ない……と春蘭は考えていただけだが、これは秋斗の狙い通り。
彼は部隊一つだけでなく、軍全体に行き渡る状態でそれを言って欲しかった。覇王に頼る心が黒麒麟に縋る心にすり替わる前に。
心の支えが抜けた場合、まずは他の何かで埋めようとするのが人であり、個に頼っていたのなら個に縋ろうとするのも人。
秋蘭や春蘭が彼の立ち位置を明確に示してしまえば、兵達の心に覇王の願いを浸透させる空の器が出来上がり、春蘭のバカ正直な忠義の心はその器に対して絶大な効果を発揮する。
「ははっ、そうかそうか、元譲と同じく……“曹操殿自らが出るまでも無いと認められた”勇者達か!」
からからと笑って唱えれば、皆の心に種が蒔かれる。芽吹かせるには如何すればいい。考えるまでも無く知っている者達が居る。曹操軍の将は春蘭一人だけでは、無い。
チラと互いに目を合わせて悪戯っぽい笑みを浮かべたのは、二人。
「曹操様に勝利を捧げるのは我らの常だ。主が手を煩わせるまでも無いと信頼を向けられて、誉れを感じないわけが無いだろう?」
「せや! ウチらの主は出来る事しか命じひんやろ! 送り出したって事は、ウチらだけで袁家なんざぶっ倒せるってこっちゃなぁ!」
蒼弓は重ね合わせ、神速が前を向かせる。
どよめき等起こるはずの無い規律重視の兵列には、弾む心を表すかのように熱い吐息の塊が一つ二つ。
小さな少女が二人、コクリと笑顔で頷き合った。主の一番近くで守り侍ってきたのは、他でもない季衣と流琉。彼女達はただ、自分の本心を零せばいい。
「えへへっ! じゃあボク達は華琳様から一人前って認められたって事だよね!」
「華琳様だけじゃなくて、皆も守る為に戦ってきなさいってのもあると思う」
幼い、嬉しそうな声は兵達の心を逸らせる。
此処には居ない親衛隊からじわりと広がりつつある想いのカタチが胸に響く。
なら、俺達はなんだ……?
その心を高めるのは、末端の兵士達に一番近い……二人。
「そう! 我らが主から勝利を約束されている! 地獄のような練兵を、そうして積み上げて来た力を、曹操様は認めて下さっているのだ!」
「喜べクソ虫共! 与えられたのは過ぎた期待なの! でも報いれないなら、這いつくばって死んでから詫びても足りないの! 沙和を濡れ濡れにさせられるくらいの結果で示せ!」
キリとした凪の声の後に、可愛い気があるのに汚い沙和の罵声が響けば……場違いに、厳めしいサーイエッサーの声が一部隊から上がる。
ああもう台無し
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