第三十三話 郷愁
[1/2]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
「時が経つのは早いものだ。あの時の赤ん坊がもう立派な青年になり妻を伴っているのだから。……見れば見るほど兄上によく似ている」
オジロンさんは懐かしいものを見る目でアベルを見た。きっと若かりし頃の兄をアベルに見ているのだろう。
「初めまして。アベルの妻のビアンカで……」
ビアンカが自己紹介をしようとした、その時だった。ビアンカは突然意識を失い倒れた。
「ビアンカ!大丈夫!?」
チゾットの村でも同じことがあったが、「もう大丈夫だ」と思った時にまた来るとは。取りあえず今はビアンカを助けるのが先だ。ビアンカを下手にゆさぶらないように慎重にベッドに運んだ。医師をしているというお婆さんに「ビアンカさんの様子を見るからあんたらは部屋の外で待っていなされ」と言われ私たちは部屋の外でしばらく待っていた。
「もう入ってきてどうぞ」
お婆さんにそう言われ私たちは部屋に入った。
「ビアンカさんの体は!?もしや何か大事《おおごと》では……」
サンチョが鬼気迫る表情で言った。
「ええ。大事ですぞ。何せ……」
「何せ……?」
お婆さんは黙っていた。私たちの間に緊張が走る。誰かが唾をゴクリと飲んだ。私かもしれない。
やがてお婆さんは口を開いた。
「何せご懐妊ですもの!」
つまりそれって……。
「ビアンカに子供が……」
しばらく沈黙が場を支配した。真っ先に口を開いたのは
「やったわ!やったわアベル!私……お母さんになったのよ!」
ビアンカだった。
*
「いやー。坊ちゃん!ビアンカさん!おめでとうございます!お子様を授かられて!このサンチョ、いつ天に召されてもよろしいくらい幸せです!」
「授かったというか、妊娠なんだけど、まぁ……いいか」
ビアンカご懐妊のお知らせで私たちは不思議な高揚感に包まれていた。医師のメディお婆さんによると生まれてくるのはあと9、10ヶ月後らしい。
「さて、アベル。ちょっといいかな」
「……叔父さん」
オジロンさんがアベルを呼び出していた。
アベルはそれについて行った。
*
「アベルよ。お前に話がある」
「でしょうね」
「ふふっ。確かに話が無ければ呼び出したりしないものな。ゴホン!さて話というのは王位の事だ」
アベルは黙っていた。
「私は見てのとおり若くは無い。更に言うと私は王には向いていないもともと私は代理だからな。さてここまで言えばわかるだろう」
アベルは頷いて言った。
「僕に王位を継いでほしいと」
「ああ、頼む。グランバニアは今、新しい王を必要としている。私では責務をこなすことは出来ても、グランバニアを将来まで
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ