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王道を走れば:幻想にて
第三章、その5の1:昔語り ※エロ注意
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背後に、ミルカと慧卓は勇み足で近付いていく。それを妨げるかのように、激痛に歪み悶える金切り声が響き渡った。

『ああ'ああ'ああ'ああ'っっ!!!』
「・・・こりゃ酷いな」
「気を引き締めましょう」

 ミルカが静かに抜刀して自然体に剣を構えながら、速足で建物へと向かっていく。そして閉ざされた戸口に近付いて顔を顰めた後、慎重に戸を押して開いてやった。ミルカは中の情景を数秒凝視して、不快げな表情を浮かべて慧卓らを招き入れる。
 慧卓も屋内へと入って、彼と同様の表情を浮かべてしまった。眼に入れる光景、そして鼻を突く誇張無しの夜光に照らされて顕となった建物の一階、其処は間取りを仕切る幾枚もの壁を全て取り払い柱と二階への階段だけが聳える、殺風景で温かみの無い広間であった。そしてそこいら中に視線を向かわせれば必ずあると言うほどに、憲兵達の凄惨な亡骸と夥しい流血の痕、そして壁や床や柱には斬り飛ばされた肉片がこびりついていた。

「・・・血の海、か」
「・・・これ、皆死んでるのか?」
「でしょうね。・・・凄まじい腕だ。こいつを見て下さい。ほとんど抵抗が無いくらいに頸が裁断されています。チーズみたいです」
「・・・そうなのかよ?」
「うっぷ・・・げぇぇ・・・」

 意識を汚染するかといわんばかりの吐き気を催す圧倒的な生臭さにやられたか、パウリナは頭を返して屋外へげぇげぇと息絶え絶えに戻し始めた。慧卓もすっかりと青褪めた顔付きであり、死体を幾度か過去に見ていなければ彼女と同じような境遇に陥ったであろう。
 ミルカは皺一つ動かさぬ、冷水のような面持ちで彼女を見遣った。

「こういう光景に免疫が無いのは分かりますが・・・介抱は出来ませんよ」
「・・・俺も吐いていいかな?」
「あれが許してくれそうな顔してます?」

 ミルカはそっと階段の方へと頸を振ってみせる。上階の方よりこつこつと、階段を踏み鳴らして何者かが降りて来た。冷徹な外観を主軸に置いた鋼鉄の鎧には幾筋の刃傷が走っていると同時に鮮血が点々と付着し、握られた鉄剣は血脂と肉片でぬめついていて歯毀れの部分から鈍い光を放っている。
 その男、洗脳を受けて赤黒い眼光を放つ憲兵の成れの果ては剣閃を受けてぱっくりと開いた右頬から血を流しつつも、それを全く気にせぬ薄氷の仮面でぼつぼつと言う。

「・・・任務を続行・・・」
「・・・こわいなぁ。もう少し人間味のある顔したら良いのに」
「それ、本気で言ってます?」
「・・・接敵次第・・・速やかに・・・排除する」

 男は剣を両手で握るとそれを上段に構える。いたく挑発的な対応であり、是が非でも此方を切伏せたいという強い願望が窺えるものであった。願望を抱けるような状態であるかは疑わしいが。

「あいつ、『やれるもんならやってみろ』って
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