V マザー・フィギュア (4)
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……少しずつ、眠りから覚める。
すぐには意識を覚まさない。体のほうから覚醒させていく。指先から、爪先から。体の先端から通常モードに移行する。そうすれば無意識でも奇襲に対応できる。師に教わった、本来なら逆であるはずの覚醒法。
ようやっと肉体の機能が覚醒してから、まぶたを開ける。
状況確認。
場所、自室のリビング。
位置、ソファーの上。
体勢、仰臥。
装備、足元の弓のみ。
索敵、室内に敵対存在な――――し?
おかしい。敵じゃないものの気配がある。
こんなもの、知らない。
「なーるっ。起きた?」
ひょこ、とソファーの向こうから現れた女性の顔。
……………………ああ、彼女だったのか。
「起きてる」
体を起こす。室内に脅威なし。状態はノーマルでいい。
「これは、君が?」
体からずり落ちた毛布を指す。魔女は物に触れないから、かけたのは麻衣しか思い当たらない。
「うん。こんなとこで寝たら冷えちゃうからね」
「そうか。助かった」
おかげで決戦前に風邪をひくなんて無様をさらさずにすんだ。鍛えているとはいえ、病には等しく罹る、まぎれもない人間の体だ。
「えへへ。どういたしまして」
麻衣は締まりなく笑った。
笑ったんだ。昨日まで怯えていた僕に対して。
「麻――」
「じゃあご飯にしよ。この時間じゃ朝昼兼用になるけど、いいかな」
「僕はいらないと昨日言ったはずだが」
「だーめ。何だっけ、空腹の将より満腹の兵卒のほうが役に立つ、とかいうし! カタキウチする前にお腹空いて倒れてもいいわけ?」
確かに麻衣の言う通りではあるのだが……一晩でいやに肯定的になってないか、麻衣?
「イヤなら無理に食べさせるよ」
「具体的にどうやって?」
「1、鼻つまんで口に突っ込む。2、口移し」
「……分かった。僕の負けだ」
どちらも恰好がつかないどころの次元じゃない。「ナル」が付き合うのも肯ける鮮やかな対応だった。
麻衣の作った具だくさんのスープとおにぎりは旨かった。口に合ったというべきか。僕の好みに合っていた。麻衣はどれだけ「僕」のことを知っているのやら。
――好み?
10年前のあの日以来、味らしい味なんて感じたことがなかった。
スポンサーの接待に行かされたパーティーの贅を尽くした料理も、養父母の手料理も、ひたすらに無味だった。
そんな僕に「好み」なんて高尚な機能があるわけない。
僕はどうしてしまったんだ。
「どうしたの? まずかった?」
「いや……何でもない」
「思いっきり何かある顔で言われても説得力ないよ。文句があるならキッチリ言って」
「本当にない。驚いただけだ
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