第11話 卒業
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その中でも例外はある。戦略研究科は体質的な問題(ワープ酔いが激しいなど)か精神的な問題(強度のホームシックなど)がない限りは、基本的に閑職ロードはない。だから現役兵・専科修了生以外に、他の科の士官候補生からも厳しい視線が向けられる。「甘えを見せるようなら(精神的に)追い込むぞ」というような。
針の筵のような環境下、成績を落とす戦略研究科の候補生が多い中で、俺とウィッティはどうにか乗船前の成績を維持できていた。陸戦実習や後方勤務実習などを終えて、ハイネセンの士官学校寮に帰還したのは雪がちらつき始める一一月下旬。卒業まで後数ヶ月残すのみ。学年最終考査を残して、俺は二年生となっているヤンから相談を受ける羽目になる。
「本年度末を持って、戦史研究科が廃止される、という決定がなされました」
ヤンの顔にはいつものような余裕がなく、言葉の節々に意志の強さが籠もっている。
そうか、そのイベントがあったかと、俺は心の中で舌打ちしつつ、紙コップの中の烏龍茶を一気に飲み干した。
「……それで同期の戦史研究科の連中がザワザワしていたのか」
あえて直接応えることなく、俺は言葉の回り道をしたが、原作では教官にすらこの件では噛みついたヤンに、この程度のごまかしは通用しない。
「私は戦史を研究したくて士官学校に入学したのです。学生を募集しておいて、卒業前に学部を廃止するのはおかしいと思いませんか?」
「……確かにお前さんの言うとおりだな。もちろんお前さんの研究したいのは“戦史”ではなくて“歴史”なんだろうが」
「戦史研究科の廃止に、ボロディン先輩は反対だと考えてよろしいですね?」
「個人的には、な。だが士官候補生、あるいは軍人として言うなら反対も賛成もしない」
「そのお答えは少しばかりズルくはありませんか?」
ヤンの珍しい挑発的な言葉遣いに一瞬頭に血が上ったが、俺は一旦目を閉じ、腹から小さく息を吐いて心を静め、心拍が落ち着いた段階で、若干興奮気味のヤンを見つめ直して口を開いた。
「ヤン=ウェンリー候補生。君の言いたいことは、自分も正しいと思う。結果として軍全体が歴史研究を軽視すると判断されかねない決定は、軍人としての自分も了承しかねるところはある」
「……」
「だがな。我々は軍人だ。軍人とは軍隊の組織要素であり、軍という組織は運用上、上意下達は絶対だ。それが守られなければ軍隊は組織として形を失い、ただの夜盗と変わらぬ暴力集団になりかねない」
「上層部が下した判断が、どんなにおかしなものでも、ですか?」
「おかしな判断を下した人間は、いずれにせよ処罰される。フェアとかフェアじゃないとかはこの際関係ない。“軍人は命令に従う”まずこれが大前提だ」
そこまで俺が言うと、ヤンはいまだに納得しがたいといった表情で、鼻息を漏らす。
「軍上
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