暁 〜小説投稿サイト〜
ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第10話 10年来の天才 
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ると、座ったままのワイドボーンの肩に手を置いてやった。
「あぁ読書なんかいいぞ。“退屈な”過去の戦史なんか読み漁ってみると、意外と気持ちよく眠れるもんだ」

 これは余計なお節介だったかもしれないな、と思いつつ俺はワイドボーンを置き去りにして、ウィッティとその場を去った。カフェの出口から一度だけ振り返って見ると、ワイドボーンは席に一人座ったままだ。
「随分と優しいな、お前は」
 ウィッティが俺に軽く肘を当てると、俺は頭を掻いてごまかした。
 ワイドボーンは第六次イゼルローン攻防戦の序盤で、金髪の孺子の狩猟の餌食となった。だがその時点で、二七歳で大佐だった。ヤンも大佐だ。エル・ファシルのハンデがなく、不敗の魔術師と同じ地位にいる。しかもヤンのように本営の幕僚ではなく部隊の参謀長として、だ。そうしてそんな奴が無能なものか。金髪の孺子が規格外なのであって、優秀な軍事指揮官になる素質はある。ヤンに負けただけで潰れるとは思わないが、少しぐらいフォローしたっていいだろう……
「俺が優しいってこと知らなかったとは、高級副官失格だぞウィッティ」
「だから俺がいつからお前の高級副官になったんだよ」
 二度目の肘鉄は、完璧に俺の鳩尾にクリティカルしたのだった。

 以来、ワイドボーンは一人で図書ブースに長時間籠もっている姿が見受けられた。さすがにヤンの隣に座るということはなかったが、夏から秋、秋から冬にかけて、ワイドボーンの読書席の座り方が最初はキッチリ背筋を伸ばしていたものがいつの間にか猫背になり、年明け頃にはデスクに足を載せていた。そこまで見習う必要はないだろうが。

 だがそうやって暢気に四年生をやっていてもいずれ終わりはやってくる。

 学年末試験でヤンの席次は少しだけ上がった。落第スレスレが平均点ソコソコといったところまでに上昇している。だが「射撃実技」や「戦闘艇操縦実技」は普通にダメな成績だった。
「肉体的欠点です。これは“努力”じゃ無理ですよ」
 別に成績を見せに来なくてもいいのに、ヤンはそう言って“悪い点数だけ”俺に見せに来る。入れ違いにワイドボーンもやってくるが、二人は軽く敬礼するだけで言葉を交わさない。
「相変わらず仲が悪いのか」
性格(そり)が合わないんですよ。彼とは」
 すっかり口調の角が取れてしまったワイドボーンも、俺に成績表を見せる。別に俺は親でも教師でもなんでもないのに、何故か親しい下級生はこぞって俺に席次表を見せに来る。
「お前は首席だっているのは分かっているから見せに来なくてもいい」
「そういう先輩は七番ですか。残念でしたね。やはり「帝国公用語」と「対仮想人格戦」の成績ですか」
「努力はしているぞ」
「分かっております。八五点と八二点というのは、決して悪い成績ではないですよ」
 肩を竦めるワイ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ