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【短編】竜門珠希は『普通』になれない【完結】
可愛いは正義。だけど化粧で作れる
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もアニメを選ぶ基準に声優の項目がある。原作が好きではないと言いながらもその声優目当てで録画してまで見るその行動力はどこから湧いて出てくるのか珠希にはよく理解できなかった。

「なんだよ珠希。今の声優は凄いんだぞー」
「何がよ。歌って踊れるんなら昔からいたでしょ」
「ダメダメ。おねーちゃんのそういう『アイドル声優』みたいな一括りはよくないよ」
「じゃあそういう声優(ひと)たちはどう呼べってのよ」

 後出しの言い訳に聞こえるが、珠希は別に声優が嫌いなわけではない。歌おうが踊ろうがPV付けてCD出そうが自分には関係ない。そういうのは好きな人が買えばいいと思っているだけで、ストーリー基準で見るアニメを選ぶ珠希からすればこの声優はここがこうだから――などと鼻息荒くしてプッシュしてきたり講釈垂れたりする相手が苦手なだけだ。

「んー。どう呼べばいいんだろーなぁ」
「ちょ、お兄ちゃん?」

 腕を組んで難しい顔を浮かべた暁斗が開口一番吐いた台詞に、珠希は反射的に右手に握り拳を作っていた。鳩尾や顎を狙って放たなかっただけ感謝してほしい。

「けどな、歌うのも踊るのもそう易々とできることじゃないだろ?」
「えーそーですねー」
「しかも今時の声優さんはみんな可愛いんだ。それはもうお前たちと同じくらい」
「それホントなの? おにーちゃん」
「へーはーそーですかー」

 確かに女性声優が可愛くて美人であることは多少なりともプラスに働くのだろう。珠希としてもイケメンな男性声優は気になるところだが、それはアニメを見る基準に昇華しないのが本当のところだ。
 少なくとも、眼前のこのバカ兄妹を除いて。

「ああもちろん。けど俺からすれば結月が一番だな」
「あ、やっぱり〜?」
「あのー、寝言なら寝てから言ってもらえますかー?」
「寝てないよー。俺はいつだって結月も珠希も可愛いと思ってるよー」

 イチャつく兄と妹を前に、この会話の出口が見えなくなってきて次第に苛立ちが募ってきた珠希に気付いたのか気づいていないのか、暁斗はいつもの間延びした声で――しかも小さくウィンクなどしながら――目が据わり始めた珠希に声をかけた。
 しかし、その言葉は逆に珠希の苛立ちを弾けさせる。

「そんな顔するなよ珠希ぃ。せっかくの可愛い顔が台無しだぞー」
「そうだよおねーちゃん。おねーちゃんだって私の次くらいに可愛いんだから」
「あんたらなぁ……。あたしは可愛いより美人と言われたいんだよ」

 ドスの聞いた低い声で――少なくとも子供は裸足で逃げ出すレベル――家族のせいで募った苛立ちで黒化した珠希の吐き出した一言に、暁斗も結月も一瞬で言葉を失った。
 もはや可愛いと言われて喜んでいられる年齢じゃない。大抵の女性は「キレイ」に謙遜し、「カワイイ」を
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