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【短編】竜門珠希は『普通』になれない【完結】
可愛いは正義。だけど化粧で作れる
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それでヤバいな。けど珠希、だからって結月(いもうと)をイビるなよ?」
「イビってないって。心の中で(なじ)っただけ」
「心の中で、ってだけマシかぁ……?」

 どこか納得していないような表情を浮かべると、大樹は母親同様に仕事道具が置いてある部屋に戻ろうとダイニングを出る。

「あ、お父さん。ついでに離れからお母さん回収(・・)してきて」
「おお。わかったわかった」

 ダイニングを出た大樹の背中に珠希が声をかけると、大樹の軽い返事が響く。特に回収(・・)というフレーズを気にかけないのは、以前に何度もこういう状況に遭遇しているからだ。 なお、珠希が「回収」と言えば彩姫は魂が抜けかかっている状況にあることを意味し、「連行」はPCのコンセント引っこ抜いてでもご飯を食べに来させてという命令である。
 料理こそしてくれないが、その他食器の片付けや掃除や車の運転などは特に文句を言わずにしてくれるのが珠希の父・大樹のいいところだった。妻である彩姫と協力して珠希の兄を大学まで卒業させ、珠希を高校に通わせ、珠希の弟の野球留学を後押しし、結月を高校に入学させようとしてくれるその財源捻出と保護者としての役割はしっかり果たしてくれている。四人の子供たちの躾だってそれは簡単なものではなかっただろう。
 ――だが、それはあくまで大樹がこの三つに限っては「いい父親」であったというだけである。

「おねえーちゃーーーぁあああんっ!!」

 すると、お茶を淹れ終わったのを見計らったかのように、結月の軽い足音がダイニングに飛び込んできた――かと思うと、突然真横から抱きつかれた。

「な、何よいきなり!?」
「やっぱりおねーちゃんは最高のおねーちゃんだよっ!」
「なっ? 何言ってんのよ結月っ」

 そう言いながらぐりぐりと頬ずりしてくる結月を引き剥がそうとしていると、その後から珠希の兄・暁斗(あきと)が姿を見せた。

「おーおー、相変わらずウチの妹たちは仲良しだなあ」
「ちょ……ッ。お兄ちゃんっ! もしかして結月にバラした!?」
「だって、話さないと珠希が悪者じゃんかー」
「だからってねえ……」

 久々に会えた飼い主に見せる愛犬の強烈な愛情表現がごとく、髪の毛やら頬骨やらでちょっと痛いくらいにすり寄ってくる結月を前に、珠希はあっさりとネタ晴らしをしやがった暁斗に閉口する。
 実のところ、珠希は兄にデザート調達を口頭で頼んだ直後、ちゃんと結月の分まで買ってくるようメールを送っていた。これも妹を必要以上に甘やかしたくないという小さな姉心だ。別に珠希も結月が嫌いなわけではない。少しばかり過度の言動が目立つことがあるが血の繋がった妹で、小悪魔的なところを差し引いても本質は誰からも愛されるような娘なのだから。

「ん〜っ。やっぱり
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