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足こそ大事
第二章

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「料理だって拳法だって」
「王さんは凄いですよね」
「料理も香港屈指で」
 美食のメッカと言われている香港でもだ、彼の名は知られているのだ。大きくない普通の規模の店だがそれでもだ。
「しかもですよね」
「拳法だって」
「相当ですよね」
「あの人は」
「まさに達人です」
「僕もな」
 彼もだ、どうかというのだ。
「もっと強くならないと駄目だけれど」
「料理もですね」
「そっちの腕も」
「全然駄目なんだよ」
 遥かに及ばないというのだ。
「これが。特に麺が」
「ああ、お祖父さんの一番の得意な」
「あれはですか」
「祖父ちゃんの麺は凄いよ」
 まさに、というのだ。
「あんな麺はそうはね」
「出来ない」
「そうですよね」
「風味もいいけれどコシが凄いんだ」
 それがまず、というのだ。
「僕の作った麺なんか遠く及ばないよ」
「先輩の打たれた麺もいいですけれど」
「そうだよな」
 後輩達もその店に行くのだ、そこで託神の打った麺を食べさせてもらったこともある。そしてその味はというと。
「美味しいよな」
「風味があって」
「しかもコシも」
「申し分ないですよ」
「けれど祖父ちゃんの打った麺と比べるとだろ」
 真剣そのものの顔でだ、託神は後輩達にこう返した。
「そうだろ」
「まあそれは」
「やっぱり」
「あの人の打たれた麺は特別ですから」
「どうしても」
「そうだろう?どうしたらあんな麺が打てるんだ」
 首を傾げさせてさえ言う託神だった。
「本当にな」
「それに拳法もですね」
「違いますか」
「もう何もかもが」
「動きが違うんだよ」
 祖父である王のそれはというのだ。
「かなりの歳なのに。まるで風みたいに速くて細かい動きで」
「先輩よりもですか」
「ずっと」
「僕の方が若いから動きは速い筈なんだ」
 そこから言う彼だった。
「けれど祖父ちゃんの方がずっと速いんだよ」
「ううん、それは凄いですね」
「あの人の方がっていうのは」
「先輩の方が背が高くて筋肉もあるのに」
「それでもなんですね」
「そうだよ、それが不思議なんだよ」
 こう言うのだった。
「僕にしても」
「何か秘密があるんでしょうか」
 後輩の一人が彼にこう言ってきた。
「やっぱり」
「料理と拳法に」
「お祖父さんあれですよね、いつもどっちもって仰ってますよね」
「そう、拳法を極めて料理を極めてね」
 そしてというのだ。
「料理を極めて拳法を極める」
「そう仰ってますよね」
「いつもね、どっちかじゃなくて」
 孫である彼もこのことが不思議だった、どうしても。
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