第一章
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足こそ大事
香港の料理店西太后はまず名前が悪いと言われる。幾ら何でも中国三悪女の一人の名前を店の名前にするのはどうかというのだ。
だが、だ。その味は評判だ。店主の王恩人の腕の賜物だ。
王は全体的にどの料理、広東料理ならどれでも上手だが特に麺が絶品だ。それで客達はいつもその麺を食べて言うのだった。
「いや、この店の名前は悪いけれどな」
「料理は美味いよな」
「特に麺類な」
「この店の麺は絶品だよ」
「味もいいけれどコシが違う」
「全くだよ」
こう言うのだった。
「本当にすごい料理人だな」
「しかも料理だけじゃないからな」
「ああ、それにだよ」
王のもう一つの特技、それはというと。
「拳法だってな」
「そっちもかなりだからな」
「香港一だろ、拳法の腕は」
「そっちも相当だからな」
「極めているからな」
「両方凄いのはどうしてだろうな」
このことについて疑問の声も出て来た。
「一体」
「どっちも両立させることは難しいだろ」
「いや、不可能だろ」
料理も拳法も極めるとなると相当に困難であることは言うまでもない、しかしなのだ。
王はそのどちらも極めている、まるで何でもない様に。だが王はこのことについて飄々とした顔で答えるだけだった。
「いやいや、これがな」
「これが?」
「これがっていうと」
「片方だけでは駄目なのじゃよ」
これが本人の言葉だった。
「料理も拳法もな」
「どっちもか?」
「料理も拳法もか」
「そうじゃ、料理を極めれば拳法を極め」
王は飄々とした顔で笑って客達に話すのだった。
「拳法を極めればじゃ」
「料理もか」
「極められるんだな」
「その通りじゃよ」
こう客達に言うのだった。
「そうしてな」
「そうか?どっちかじゃないのか?」
「どっちかじゃないのか」
「一方を極めるものじゃないのか」
「どっちもなのか」
「わしの場合はそうじゃよ」
王の場合はというのだ。
「わしの料理と拳法はな」
「ううん、わからないな」
「そういうものか?」
「両立するものか」
「どっちもなのか」
「そうじゃ、そういうものじゃよ」
彼は年齢を感じさせぬしっかりとした背筋で言うのだった、小柄で皺だらけの顔だがそこには確かな人生の重みもあった。その彼の人柄も客達には評判だった。
店には彼の孫、娘が婿を取って出来た子である王託神もいた、父は銀行員で彼が店を継ぐことになっている。彼は祖父を尊敬していて彼の跡を継ぐべく日々料理を拳法に励んでいた。しかしその修行の中でだ。
いつもだ、彼は苦い顔で言うのだった。
「まだまだだな」
「腕がですか」
「師匠に及ばないと」
「祖父ちゃんは凄いよ」
こうだ、通っている高
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