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喪服の黒
第五章

[8]前話
「侑里ちゃんが結婚することが楽しみよ」
「私がなの」
「いい人見付けてね」
 こう娘に言うのっだった。
「お父さんみたいなね」
「お父さんみたいな人を見付けて」
「幸せになるのよ」
「幸せに」
「そう、絶対にそうなってね」
「そうよね、私もね」
 母の言葉を受けてだ、そしてだった。
 そのうえでだ、侑里は美也子の言葉にこう答えたのだった。
「幸せにならないとね」
「駄目よ。約束してね」
「うん、けれどお母さんってね」
「お母さんがどうしたの?」
「綺麗よね」
 こう言うのだった、自分の母に。
「凄くね」
「お世辞?」
「お世辞じゃないわ。ひょっとしたらね」
 母の心を知っての言葉だった、今は。
「お母さんこれからも男の人にプロポーズされるかも知れないわよ」
「それはどうしてなの?」
「綺麗だから」
 顔だけでなく、というのだ。
「だからね」
「ううん、お母さん別に」
「いやいや、綺麗だから」
 ここでも何が綺麗とは言わない侑里だった。
「本当に」
「そうかしら」
「ええ、そこまで綺麗だとね」
 また、というのだ。
「誰かに告白されると思うわ」
「どうしてかしら、こんなおばさんに」
「綺麗っていうのは歳じゃないと思うわ」
 そこははっきりと言った娘だった。
「だからまたね」
「そうなのね」
「そう、そうなるかもね」
 こう母に言うのだった、そのうえで。
 侑里は自分のことも考えるのだった、母の様に綺麗になろうとだ。その顔だけでなく心までも綺麗な母の顔を見ながら。


喪服の黒   完


                            2014・2・28
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