第十三章 聖国の世界扉
第四話 入国
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チッタディラ―――ロマリア南部に位置する港であり、一つの都市程の大きさはあるだろう巨大な湖の隣に栄える城塞都市である。空を行く船の発着に都合が良いという事から湖に建設された港は、今や様々な国の船が離着水することとなり、その流通により都市の発展に重要な役割を果たしていた。そんな港の岸部から伸びる桟橋に、新たな一隻が横付けされた。“オストラント号”である。
“オストラント号”がトリステインを出航してから三日。士郎たち一行は、無事目的地であるロマリア南部の港にあるチッタディラに到着していた。快速線であっても一週間以上は掛かる道程を、“オストラント号”はその半分以下にまで縮めることに成功していたのである。その成功を祝うためか、“オストラント号”が停泊した桟橋の周囲には多くの人が集まっていた―――勿論そんな訳はなく、ただ単に、港の近くに住んでいる人の目にも珍しい形をした船であることから、好奇心により集まってきたのであった。
集まった群衆を船の上から見下ろした士郎たちは、難しい顔を浮かべた。今回の渡航は非公式なものであり、目立つことは御法度である。出来るだけ早く、かつ密やかにアンリエッタの元まで向かわなければならないのだが、着いて早々のこの始末だ。一応士郎たちのロマリア行きは、表向き『学生旅行』と言う事になっているのだが、これだけ目立つ船に乗っているのが只の学生とは胸を張っては言い難い。
その点を突っ込まれれば、説得するのに時間も手間も掛かるだろう。
そうこう考えているうちに、“オストラント号”の周囲を取り囲む群衆を掻き分け、神経質にキョロキョロと辺りを警戒するように視線を巡らせながら近付いてくる眼鏡を掛けたロマリアの官吏一行を視界の端に捉える。警戒心の強い小動物のように辺りを見渡し、集まった群衆を甲高い声で追い散らしている姿を見た士郎は、『融通が利かなさそうな奴だ』と嘆息を吐き、これから起きるだろう騒動を想像し―――官吏への説得の前哨戦にと、このまま遠くへ逃げてしまいたい衝動を抑えるのに取り掛かった。
士郎の予想通り、官吏の説得は難航した。
トリステイン王政府発行の入国手形を渡された官吏の男は、間違いなく本物のそれを見たにも関わらず、全く信用していない様子で士郎を上から下までじろじろと無遠慮な視線で見回すと、停泊する“オストラント号”を胡散臭そうに見上げ、“オストラント号”に設置されているプロペラ等について言及してきた。水蒸気機関の説明をした際、神の御技たる魔法をうんぬんかんぬんと言い始め、異端ではないかと一時辺りが騒然としたが、元の世界で様々な危険地帯を渡り歩いていた士郎にとって、こう言った手合いの役人の追求を躱すことは慣れていたため、多大な時間と精神力を犠牲にはしたが、何とか無事にロマリアへ入国することができた。
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