第8話 休暇
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……どうしてこの子が“リオ・グランデ”を描けるんだろうか?
「叔母さん。最近、宇宙ドックに行った?」
「グレゴリーが統合作戦本部施設部次長になった関係で、特別に見せてもらったのよ。ラリサはどうやら就役したてのその艦をいたく気に入ったみたいでねぇ。絵を描くとなるとその艦ばかり描くんだよ」
「そう、ですか」
機密とかその辺りどうなんだと思いつつも、俺は“リオ・グランデ”の未来を、家族の将来を重ね合わせて考えてしまう。
原作で同盟が帝国に滅ぼされるのは、宇宙歴八〇〇年だから一七年後。俺は三六歳。アントニナは二六歳。イロナは二三歳。ラリサは二〇歳。去年竣工し、今年就役した“リオ・グランデ”は彼女達の妹のような艦だ。そして“彼女”は同盟軍最後の宇宙艦隊司令長官アレクサンドル=ビュコック元帥の墓標となった。
自由惑星同盟は選抜徴兵制を敷いている。だが女性は志願制で、前線での勤務も奨励されてはいない。まず今のままなら義妹達が軍人を職業に選ぶとは考えられない。レーナ叔母さんが強烈に反対するだろうから。
だが先月レーナ叔母さんから送ってもらったビデオレターの最後に映ったグレゴリー叔父の顔は、若作りであり、特徴的な髭もなかったが、俺の前世の記憶にある同盟軍第一二艦隊司令官にそっくりだった。もちろん実父アントンのように戦死してしまう可能性もあるだろうが、内勤数年で少将、そして中将へと昇進するのであれば、もう疑う余地はない。
もし、俺がこのまま軍人としてのキャリアをスタートさせたとして、原作通り帝国領侵攻作戦が発動するまで何も出来なかったとしたら……尊敬する叔父は、帝国領ボルソルン星域で限界まで戦い、自決するだろう。
充分に円熟した用兵家と評され、俺をこの歳まで育ててくれた温厚で責任感の強い紳士である叔父のことだから、旗艦“ペルーン”以下八隻まで戦ったというのは、ルッツの奇襲による玉砕の結果ではなく、第一二艦隊を撤退させる時間稼ぎの為に、殿をした結果ではないかと思う。
そんな叔父を戦火で失った時、義妹達はどう思うだろうか? まして産まれ育った同盟が滅びるとなったら?
俺はどんな手を使ってでも、それだけは阻止しなければならない。
「あら、お帰りなさい、グレゴリー。ヴィクももう帰ってきてるわよ」
レーナ叔母さんの声に、俺は玄関を振り返り、そこに一ヶ月前にはなかった微妙な髭の生えているグレゴリー叔父の顔を見て、俺は固くそう誓わざるを得なかった。
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