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雲は遠くて
56章 芸術の目的は人間を幸せにすることにある
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は、メンバーの人柄というのか、
個々の個性というのか、気が合うかの相性が、第一なのかしら?
ねえ、詩織ちゃん」

 モッツァレラとトマトソースたっぷりのパスタを、おいしそうに食べる美樹が、
隣の席のグレイスガールズの大沢詩織に、そういって微笑んだ。

 正面のテーブルの向かい側に、(そろ)って座っている、美樹と詩織を
川口信也は、ぼんやりと眺めては、微笑んで、カクテルでほろ酔い気分になっている。

 そのカクテルは、ドミニカンココ(Dominican Coco)という。
店のオリジナルで、薫り高い、カリビアンラムにココナッツミルク、
マンゴージュースの入ったトロピカルなカクテルで、特に女性に人気がある。

 美樹や、20歳になったばかりの詩織、グレイスガールズのメンバーも、
オーダーして、ドミニカンココを楽しんでいる。
 
「大天才なら、音楽だけに専念して、人生を送るものいいのだろうけど、
おれも、普通に仕事しながら、プライベートでバンドやってゆく道を、
選んじゃうよね。おれのような少しくらいの才能で、がんばったって、
創造できる音楽は、知れている気がするんだよ。美樹ちゃん、詩織ちゃんは、
どう思うのかな?こんなおれの考えなんだけど」

 そういうと、信也は、ドミニカンココを飲み干すと、店のスタッフを呼んで、
生ビールをオーダーする。

「しんちゃんの言うことは、よくわかるわ。未知な自分の才能に、賭けてみたり、
過信し過ぎるのも、病気な感じよね。場合には狂気のようなことだわ。
でも、しんちゃんは、すごい才能あるわよ。
自惚(うぬぼ)れないなんて、立派だと思うわ、わたし」

 美樹はテーブルの向かいの信也に、優しい眼差しで微笑んだ。

・・・美樹ちゃんは、いつ見ても、かわいいし、きれいだな。おっとっと、
おれには、詩織ちゃんというステキな女性がいるんだ。
美樹ちゃんも、陽斗(はると)くんは、お似合いだぜ。陽斗くんも、いいヤツだし・・・

「しんちゃん、19世紀イギリスの詩人、ウィリアム・モリスが、『芸術の目的は、
人間をより幸せにすることにある』っていってますよね」

 美樹の隣の松下陽斗が、テーブルの向かいの信也にそういった。

「ああ、ウィリアム・モリスね。おれも彼の考えは、共鳴にはするよ。
彼は、生活を芸術化するためには、根本的に社会を変えることが必要と
主張しているんだよね。それで、マルクス主義に傾倒し、
熱烈に信奉したらしいけど。おれは、マルクス主義とかで、世の中がよくなるとは、
どうも信じられないんだよね。マルクス主義を掲げている国って、
言論の自由もなくて、独裁国みたいだしね。他人のことも他国のことも、
悪くは言いたくないけどね。あっはは」

 
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