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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第7話 魔術師 入学
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場合は、ほぼ勝利を手にすることが出来るようになった。対戦相手は当然俺に向かって「勝つために」挑んでくるのだから、相手の癖や性格がわかれば、勝利への道はかなり近くなる。なるほど「敵を知り己を知れば百戦危うからず」というのはよく言ったものだと心の底から感心できた。

 もっともその過程において、進んで人を罠に貶めることに慣れていくドス黒い不愉快さと、その影にちらつく毒々しくも甘美な味を知ってしまったわけで。毎朝鏡を見る時、自分の頭に羊の角が生えてないか、確認するようになってしまったのだが。

 それはともかく、変な偶然というものはあるもの。それとも入学四年目にしてようやく弟子入りした小悪魔に大悪魔が褒美を与えてくれたのか、それとも俺をこの世界へと転生させた何者かの超常的な力が働いたのか。俺は入学式から二ヶ月もせずして魔術師に出会ってしまった。

 その日はたまたまウィッティが俺とは別の訓練を受けている関係で、部屋に戻っても一人しかいない状況になり、ぼんやりと自室自習するならと次の対戦に備え、地球時代の戦史や公文書記録を読んでみるかと俺は校内の図書ブースへ向かっていた。

 既に五限目が始まっており、図書ブースには学課のない候補生がある程度の間隔を取って、各々勉学に励んでいるようだった。俺も同じように周囲がそこそこ空いている席を探していたのだが、その中でも一番奥の辺りに位置する読書席で、どう見ても勉強ではなくボンヤリと映画鑑賞しているような雰囲気で座席にもたれかかっている魔術師の卵を見つけてしまった。両足を上げて座席で胡坐をかいて画面を見ている姿は、多少若作りとはいえヒューベリオンの司令艦橋にいたあの姿とまったく同じだった。

「ヤン=ウェンリー提督……」
 俺は近寄ってその姿を見て、思わず呟いてしまった。そりゃそうだ。原作アニメを見ていた人間なら、誰だって無条件でそう呟きたくなるに違いない。
「はぁ? ……」
 胡坐をかいたまま、こちらを見上げるヤンの顔が、半分寝ぼけた表情から『ヤッチマッター』という表情に変化するのを見て、俺は苦笑を堪え切れなかった。そしてヤンは、俺が怒るよりも苦笑している事に安堵を感じたのか、気恥かしそうに例の収まりの悪い髪を右手で二・三度掻いた後、座席から立ち上がって敬礼した。

「大変失礼いたしました。戦史研究科初年生のヤン=ウェンリーです」
「戦略研究科四年生のヴィクトール=ボロディンd……だ」
 俺が『です』と言いたくなったことも無理ない事だと、内心で皮肉を感じざるを得ない。あの金髪の孺子に比類するこの時代の主人公を前にして、今の俺はただの年齢順序とはいえ『先輩』なのだ。強烈な違和感が身体中を這い廻るのを、俺は感じた。

 俺が何も言えず、妙な感動に震えているのをヤンは困ったように見つめていたが、
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