オーバーロード編
第6話 “ヒーロー”の定義
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プに注ぎ、ソーサーに載って持ってきた。
「どうぞ。兄さん。角居さん」
「ありがとう、碧沙」
カップを受け取る。これらの茶器や茶葉などは、全て社員の善意の寄付品だ。
(若すぎる碧沙に過酷な実験を強いる罪滅ぼし――ってとこか。まあ、碧沙の人柄も大きいんだろうけど)
紅茶から漂うベルガモットの香りは、碧沙が至近距離にいる時に感じる香りと似ていた。
「紘汰さんを、撃ちました」
口を突いて出た。裕也と碧沙、二人分の視線を浴び、光実はカップの中身を見るように俯いた。
「木の陰に隠れて。後ろから。見えないように。アームズチェンジで無防備になる瞬間を狙って。トドメは、バロンの戒斗に、邪魔、されたけど」
裕也も碧沙も口を挟まず、光実の話を聞いていた。
「――紘汰に、なんかされたか?」
光実の非でないことを前提にかけられた台詞に、不覚にも涙腺が緩んだ。光実は慌てて歯を食い縛り、力を入れて首を振った。
「そっかぁ。でもアームズ交換中にってのはまずいなあ」
「え……」
「変身中のヒーローに攻撃しない。特撮モノの暗黙のルールだぜ?」
光実はたまに、この人はどこまで本気なんだろう、と思うことがある。
「そうでなくても隠れて不意打ち。気分悪くないか」
「悪いです……けど」
気分が悪いのは、決してそれだけではない。撃った相手が他ならぬ葛葉紘汰だから。
「けど?」
「……紘汰さんはもうヒーローなんかじゃない」
紘汰は舞に秘密をしゃべった。光実が隠して隠して隠し通した秘密を、他でもない舞に。許せるわけがない。
「仮面の下に痛みも悲しみも隠して戦って、愛する人の日常を守る。それこそがヒーローってものじゃないんですか。傷つくのは自分だけでいいのに。傷ついてほしくないから隠すのに。それを、それを――!」
握りしめたカップがソーサーとぶつかってカチャカチャと鳴り、中身の紅茶に波紋が立つ。ああ、自分は震えているのか。
そ。横から白い手が光実の手に重ねられた。妹が案じる顔で光実を見上げていた。
「ま、お前が紘汰を完全にやっちまわなくてよかったよ」
「裕也さんも、紘汰さんのほうがよかったって言うんですか」
お前も結局は葛葉紘汰の味方なのか。そんな思いを込めて裕也を睨みつける。
「違うって。だってお前、紘汰になんかあったら泣くだろ?」
完全なる言葉の不意打ちだった。
そして、その指摘は全くもってその通りだった。
恨む一方で、光実のどこかが紘汰を慕ったままでいる。
「僕は……っ」
その時、裕也のスマートホンが鳴った。
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