暁 〜小説投稿サイト〜
ロード・オブ・白御前
オーバーロード編
第6話 “ヒーロー”の定義
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
プに注ぎ、ソーサーに載って持ってきた。

「どうぞ。兄さん。角居さん」
「ありがとう、碧沙」

 カップを受け取る。これらの茶器や茶葉などは、全て社員の善意の寄付品だ。

(若すぎる碧沙に過酷な実験を強いる罪滅ぼし――ってとこか。まあ、碧沙の人柄も大きいんだろうけど)

 紅茶から漂うベルガモットの香りは、碧沙が至近距離にいる時に感じる香りと似ていた。

「紘汰さんを、撃ちました」

 口を突いて出た。裕也と碧沙、二人分の視線を浴び、光実はカップの中身を見るように俯いた。

「木の陰に隠れて。後ろから。見えないように。アームズチェンジで無防備になる瞬間を狙って。トドメは、バロンの戒斗に、邪魔、されたけど」

 裕也も碧沙も口を挟まず、光実の話を聞いていた。

「――紘汰に、なんかされたか?」

 光実の非でないことを前提にかけられた台詞に、不覚にも涙腺が緩んだ。光実は慌てて歯を食い縛り、力を入れて首を振った。

「そっかぁ。でもアームズ交換中にってのはまずいなあ」
「え……」
「変身中のヒーローに攻撃しない。特撮モノの暗黙のルールだぜ?」

 光実はたまに、この人はどこまで本気なんだろう、と思うことがある。

「そうでなくても隠れて不意打ち。気分悪くないか」
「悪いです……けど」

 気分が悪いのは、決してそれだけではない。撃った相手が他ならぬ葛葉紘汰だから。

「けど?」
「……紘汰さんはもうヒーローなんかじゃない」

 紘汰は舞に秘密をしゃべった。光実が隠して隠して隠し通した秘密を、他でもない舞に。許せるわけがない。

「仮面の下に痛みも悲しみも隠して戦って、愛する人の日常を守る。それこそがヒーローってものじゃないんですか。傷つくのは自分だけでいいのに。傷ついてほしくないから隠すのに。それを、それを――!」

 握りしめたカップがソーサーとぶつかってカチャカチャと鳴り、中身の紅茶に波紋が立つ。ああ、自分は震えているのか。

 そ。横から白い手が光実の手に重ねられた。妹が案じる顔で光実を見上げていた。

「ま、お前が紘汰を完全にやっちまわなくてよかったよ」
「裕也さんも、紘汰さんのほうがよかったって言うんですか」

 お前も結局は葛葉紘汰の味方なのか。そんな思いを込めて裕也を睨みつける。

「違うって。だってお前、紘汰になんかあったら泣くだろ?」

 完全なる言葉の不意打ちだった。
 そして、その指摘は全くもってその通りだった。
 恨む一方で、光実のどこかが紘汰を慕ったままでいる。

「僕は……っ」

 その時、裕也のスマートホンが鳴った。
[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ