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噂話
第三章
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似合っていた。
「彼、完全に噂信じてるみたい」
『そうでしょ?これって案外いいのよ』
「まさか上西君も自分の友人の彼女があんたなんて思わないでしょうね」
『知っててもわからないわよ』
 電話の向こうの彼女は笑って奈緒子に言う。
『私がその噂を彼に言ったなんてね』
「その噂が作られたことも」
『わかる筈ないわよ』
「そうそう」
 奈緒子は笑顔で待ち合わせ場所の煉瓦の上に腰掛けている。そうして周りにまだ靖が来ていないのを確かめながら電話をしていた。
「その噂が実は作り話だってことも」
『わかる筈がないわ』
 そういうことなのであった。全ては二人が仕組んだ作られた噂だったのだ。奈緒子の女友達が彼氏に噂を話して彼はそれを靖に話す。それを聞いた靖は奈緒子に告白する、そういうことなのだった。
『けれどさ』
 ここで電話の向こうの友人は言ってきた。
「何?」
『回りくどいことしたわね、随分』
 彼女はこう電話の向こうから言ってきた。
『素直に自分から言えばよかったのに。またどうしてこんなふうにしたのよ』
「だって。あれじゃない」
 奈緒子はそれに応えて少し楽しそうな笑みを浮かべてきた。電話から見える筈がないがそれでも声にもそうした笑みが出てきていた。
『あれって?』
「こういうのは彼の方から言わせるに限るじゃない。そうでしょ?」
『聞き出すってこと?』
「少し違うわ」
 それは否定してきた。どうやら考えることは案外深いもののようである。
「だって。恥ずかしいし」
『それだけ?』
 案外繊細なようである。それが今彼女の顔にも出ていた。
「いいえ、もう一つあるわ」
『何よ、それ。よかったら教えて』
「やっぱり嬉しいじゃない。好きな子に告白されると。そうじゃない?」
 のろけた顔と声になっていた。実はこれが素顔なのかも知れない。
「でしょ?やっぱり」
『まあそうだけれど。それにしても周りくどかったわね』
「それだけの価値はあるの。あっ、来たわ」
 ここでふと気付いた。靖の姿が見えたのだ。
「それじゃあね。これからだから」
『頑張りなさいよ、折角色々とやってここまでこぎつけたんだから』
「わかってるわ、絶対に離さないんだから」
 そう言って電話を切った。そうして立ち上がって靖に顔を向けてきた。
「おはよう、上西君」
 普段の冷静な顔で挨拶をする。しかしそれは仮面である。仮面の下の素顔は決して見せはしない。噂話もまた謎のままであった。全ては彼女の心の中だけにあるものだった。


噂話   完



                   2007・4・14

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