ビートライダーズ編
第3話 巴と碧沙
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その日も鬱陶しい学校のお勉強が終わり、巴は、暮れなずむ沢芽の街にくり出した。
目的地は中規模の森林公園。
前回は街の中心地に出て踊ったから、今日は郊外まで足を運んだ。またチームバロンのように難癖を付けられるなど御免だ。
ブレザーのジャケットのコーディネートを考えながら待っていると――来た。巴が待ち焦がれた相方。
「巴っ」
「碧沙っ。あんまり走っちゃだめでしょう」
巴は慌てて碧沙に駆け寄った。タイミングよく碧沙がふらついたので、碧沙は巴の胸に飛び込む形になった。
「ほら。体が弱いんだから、ダンス以外で無茶は禁物よ」
「だって、早く巴に会いたかったんだもの。学校じゃちっとも話せないんですもの」
碧沙は拗ねた顔をして、巴の肩に擦り寄った。
呉島碧沙は名実揃った「お嬢様」である。
沢芽市を支配している(と言うと聞こえは悪いから碧沙の前では言わないが)ユグドラシル・コーポレーション、その重役の一人娘であり、開発部主任の愛妹。
将来を約束された呉島家の令嬢でありながら、勉学を怠らず。
病弱という欠点さえ、彼女を春の陽だまりのように華めかせる。
つまり、ここまで揃った少女に対し、崇拝者が出ないほうがおかしいということで。
彼女たちの中学校の中だけとはいえ、呉島碧沙は、男女共に人気絶頂のお嬢様なのだ。
巴とて一時期は、「呉島碧沙というカリスマお嬢様」に憧れる女子の一人に過ぎなかった。家庭も普通、成績はむしろ悪い「劣等生」の巴があの呉島碧沙に近づいて許されるほど、学校とは寛容な環境ではない。
(それが今は、路上でダンスを披露して、あのチームバロンにインベスゲームを一緒にしかける仲。人生とはどう転がるか分からないものね)
だからだろうか、こうしてビートライダーズとして会う時間は、逢瀬を思わせた。
巴は苦笑し、碧沙を離した。
「分かったから。早く準備して踊りましょう。今日は近くに他のビートライダーズもいないし、思いきり演れるわ」
「ええ。待ってて。すぐ」
碧沙は巴と同じ位置に学生鞄を置きに行った。
碧沙もまたブレザーのジャケットをコーディネートし、髪をブラシで梳いて高く結い上げた。
それを見届けた巴は、逆に長い黒髪を留めていた髪ゴムを外した。キューティクルが強い巴の髪は、1日結った程度では跡がつかない。
こうして少女たちは一時だけの路上のダンサーへと変貌した。
CDラジカセの再生スイッチを押してから、巴と碧沙はその場に並んだ。
「始めましょうか」
「ええ」
曲が始まる。巴と碧沙は、両足を肩幅に広げ、両腕を振り始めた。
彼女らのダンスは決して技に秀でたものではない。二人が同じ振りつ
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