ビートライダーズ編
プロローグ
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美味そうだ。それしか考えられなかった。
食べたい。それだけの気持ちしかなくなった。
木に絡んだ蔓から赤紫の果実をもぎ取り、皮を剥ぎ、薄紅の果肉にむしゃぶりついた。すると体中が熱くなり、痛くなり。それからの記憶には空白がある。
森をさまよい歩いた。どこを行けば街に帰れるのか彼には分からなかった。来た時の出口は閉じてしまった。
幸いにして食糧はそこら中に果実があったから困らなかった。果実は疲れた彼の胃を満たし、のどを潤した。
食べるごとにパキパキと肌が割れるような感触があったが、果実は美味くて、食べるのをやめられなかった。
しばらくして彼は、ようやく人と会えた。その人たちは災害時の消防士のような格好をしていたが、この際、彼にはどうでもよかった。これで街に帰れる。
だが何故だろう? 彼らは怪物でも見るような目で彼を見た。一歩踏み出しただけで逃げ出した。
彼は途方に暮れた。
彼はまた森を歩き始めた。一度希望を見てしまうと、ちょっとした物音にも、人ではないかという期待が高まり、そうではないと知って落ち込む。
精神の激しいアップダウンは、体力とは別の所で彼を消耗させた。
ア゛ア゛アァァァァ――!!
咆哮する。森はその咆哮以上の静寂を返す。いよいよ気が狂いそうだった。
膝を突き項垂れていると、さく、さく、と草を踏む音がした。
最初は幻聴だと思って無視した。しかし音は止まず、しかも徐々に彼に近づいている。
今度こそ助けが来たのかもしれない。怯えながらも彼は顔を上げ、驚くべきものを見た。
確かに現れたのはヒトだった。しかしその出で立ちは普通の人間のものから大きくかけ離れていた。
強引に喩えるなら、その姿は、都市伝説に聞く「仮面ライダー」なる影のヒーローだった。
白いライダーは腰から剣を抜いた。そして、一切の問答をせず彼の腹を横一文字に斬った。
ギャア゛ア゛アァァァァ――!!
彼は咆哮した。今度は痛みから。その痛みが、本来ならば感じることなく死に絶えるほどの威力の一撃だと彼は気づかない。
地面に這いつくばる彼に、ちゃき、と白い仮面ライダーは剣を突きつけた。
彼は両手で頭を庇い、きつく眼を閉じた。
死にたくない。
それはヒトならば誰でも持つ原始的な本能だった。
死にたくない。
そう強く念じた瞬間、体が急に軽くなった気がしたが、そんな些事に構ってはいられなかった。
『! これは――』
恐れた痛みは――やって来なかった。
『私だ。今すぐ人を何人かよこせ。ああ、C25地点だ。要救助者だ』
たったさっきまで殺そうとしたくせに、救助とはどういう意味
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