幽鬼の支配者編
EP.21 動乱
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うな、と言ったのは、その鹿は自然界ではありえない外見をしていたからだ。全長は20mをゆうに超えており、高さはワタルの数倍はある。
だが、発せられる威圧感は外見の特異さよりも異彩を放っていた。自然界ではありえないほどの奇々怪々さを放つ、白と黒のみで構成された複雑な模様は見る者に生理的嫌悪感を、普通の雄鹿なら雄々しく感じられるだろう巨大な角は折れ曲がり、禍々しい印象を抱かせる。白い眼は何も映しておらず、相対するものをどうしようもなく不安に駆りたてるだろう。
「何の用だ」
『呼ばれたから顔を出したというのに、随分だな』
「呼ばれた? 誰がお前など呼ぶものか」
『いいや、お前は我らを呼んだのだ。逃れられないのだよ、お前は』
「相変わらず訳の分からない事を……何から逃げられないって?」
ワタルが問えば、鹿は首を近づける。自分の身長の倍はあるその不気味な顔に怯むことなく、彼は正面から見据えた。
一片の弱みも、この鹿に対しては見せてはいけない。見せれば自分はコイツに取り込まれてしまう……そう感じたのだ。
鹿は表情など微塵も変えていないが、開かれた口から飛び出た声音は自分と鹿自身を嗤っているかのように、ワタルには思えてならなかった。
『分かっているのだろう? 古より多くの者がそれを求めて世を乱し、持った者を狂わせていった……すなわち“力”だ』
「……俺の答えは変わらない。もう二度と、あんな力を求めたりはしない!」
『いいや、お前は必ず“力”を求める。……近いうちに、必ずな』
断固たる口調で言い放ったワタルだが、鹿の嗤いは止まない。
最後に付け加えた言葉の真意を問おうと、ワタルはこの空間に入って初めて驚いたかのように目を見開くと尋ねるが……鹿がそれに取り合う事は無かった。
「近いうち、だと?」
『さらばだ。また会おう』
「待て! どういう意味だ……中務!!」
ワタルの制止も構わず、それ以降『声』が彼に掛けられる事は無く、瞬きした彼は元の世界……マグノリア病院の屋上に戻っていた。
「くそ……何だってんだ」
あの不気味な世界に足を踏み入れたのは初めてではない。前の時と同じように、身体には不快感がまとわりつき、嫌な汗が背中を流れている。
確か、前は――それを思い出そうとしていた時の事だ。
「ッ、魔力……ルーシィ、じゃない。近いな……」
付近に魔力を感知したワタルは思考を打ち切ると、屋根伝いに走り出した。今マグノリアには、魔導士は自分とミラジェーンとルーシィしかいない。ミラジェーンは戦うために魔法を使えないので、消去法でルーシィしかいないのだが……感じた魔力は彼女の物ではなかった。
では誰のものか……外部の魔導士に決まっている。この時期にマグノリア
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