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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第5話 士官学校 その3
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 宇宙歴七八一年 テルヌーゼン市 士官学校二年生

 「戦略戦術シミュレーション」の成績が、あまり芳しくない。

 それは将来、艦隊を指揮する立場となるべき人材として期待されている戦略研究科の候補生として、かなりマイナスと評価される事実だ。もちろん戦略研究科の卒業生が、全員艦隊を指揮するわけではない。だが星間国家の実力組織として最大のものが宇宙艦隊であることは疑いようのないことで、シミュレーションは実力組織をいかに効率よく運用できるかという指標でもある。もともと戦史研究を志望していた不敗の魔術師は、一〇年来の天才をシミュレーションで破ることにより出世の足がかりを手にした。

 いくら他の科目成績が良かったとしても、才能あるいは適正がないということで、艦隊を指揮する立場には立てない。「戦略戦術シミュレーション」六五点という成績を前に俺はかなり焦っていた。

 艦隊を指揮する立場に立てないにしても、三一年後の同盟崩壊を救う手だてがないわけではない。だが自由惑星同盟という星間国家の生存条件として、あの金髪の孺子を仕留めることは絶対条件だ。情報部の工作員として帝国に侵入し暗殺するというのも手ではあるだろう。地球教徒やテロ組織を活用する手もあるだろう。だが『赤毛ののっぽさん』や『やたらと口の堅い猫』が周囲を固めているところに突入して首尾良く殺せるとはとても思えないし、他人任せは不確定要素が多すぎる。だいいち、俺は陸戦で一対一となっても孺子に勝つ自信はない。

 俺が確実に金髪の孺子を殺す為には『ハーメルンU』『エルムラントU』『ヘーシュリッヒ・エンチェン』『タンホイザー』『ブリュンヒルト』のいずれか、あるいは全てを“戦場”で撃沈するしかない。あるいはヴァンフリート四−二を惑星ごと吹っ飛ばすかだ。その為にはどうしても実力としての宇宙艦隊、あるいは宇宙戦闘艦の指揮権が必要だ。

 そして首尾良く孺子を殺す事が出来たとしても、不敗の魔術師によるイゼルローン攻略が成立し、帝国領侵攻が議会に提出され討議に移った時、実働戦力を有していない、あるいは指揮したことのない高級軍人の言葉に耳を傾けてくれる人はそう多くないだろう。艦隊指揮官としての実績のあるなしは、後方でも大きなファクターだ。

「おい、ヴィク。知っているか?」
 俺が教官から渡された「戦略戦術シミュレーション」の成績表と睨み合っていると、士官学校生活一年間ですっかり要領を覚えたウィッティが、端末片手に暢気な声で俺の背中を突っついた。
「こんど校長が交代するらしいぜ」
「ふ〜ん。誰から聞いた?」
「キャゼルヌ先輩だ。今の校長は年度末で定年になる。それで本部から新鋭の中将を呼ぶって話だ」
「つまりポストが空くまでの『腰掛け校長』か」
「ま、そういうことだ。あまり真剣に仕事してくれる
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