龍が最期に喰らうモノは
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いった認識がこの時代の人々に根付いている。現実的観点から見れば、そう信仰させる事で学識の低い民達を纏め上げていると言い換えてもいい。
言うなれば帝は、“人よりも上位”な存在。誰かが貶める事も、誰かが無礼を働く事も、許してはいけない。帝の言は絶対であり、嘘であってはならない。頭を下げる事も、頼る事も無く……自分よりも“下”として人々を見なければならない。例え帝本人が十に満たない子供であろうと。
だからこそ智者たちにとっては妄信と狂信を齎す帝の威光が恐ろしく、誰もが扱いに困りつつも、帝を手に入れようとするのだ。
その意味では、秋斗が月を連れていたのは僥倖。心の底からの懐柔が出来るのは何より大きい。
劉表の目が僅かに細まった。口は引き裂かれたままであったが、苛立ちを感じたのは華琳から見てもよく分かった。
無言での腹の探り合いで勝者は明らかにならない。しかし、わざわざ自身の有利を口に出す華琳でも無い。読み取り、読み解き、読み切り、最後に笑えればいいだけ。
「病に侵されながらも漢の忠臣たるを示す心に称賛を。臣たるモノのなんたるかを見せて頂き感謝致す、劉表殿。私も徐州の戦の報告を上げに行くとしよう」
広い部屋の空気に困惑が渦巻く。
稟と風の二人は、華琳の急な決定に焦りを浮かべ、それでも思考を紡いでいた。
「キヒヒ、そりゃいい。一人じゃあ心細かったんだ。その戦での孫策達の動きも話してくれたら嬉しいんだけどなぁ。オレんとこに攻め入ってきやがった落とし前も付けさせなきゃならねぇし」
楽しげな声音で、もはや取り繕おうとはせずに劉表は砕けた口調に変わる。友好を認めたのか、それとも認めていないのか、強引に確かめに来たのだ。彼女の強かさに華琳は思わず舌を巻いた。
「ま、待ってくだされ! ねねは……ねねは劉表様と共に行きますぞ! 待つだけなど真っ平御免なのです! ……っ……絶対に側にいるのですよ!」
劉表は一人と言った。それ即ち、陳宮を荊州に戻すという事に他ならない。無理を推して洛陽に行くと明言した以上、王の決定に口出しする事は無い。されどもせめて着いて行くくらい、と悲痛な面持ちで必死に懇願する様は、一人の武人の心を揺るがしていた。
ふいと、華琳が視線を向けると、霞は唇を必死に噛みしめていた。彼女の口元に赤い筋が一筋伝う。今すぐにでも自分達の元に来て欲しいという想いを抑え付けて。
「そちらの話は二人で決着を着けて頂戴。わざわざ謁見の間でする話では無いでしょう?」
さらりと流れる涼やかな声が、劉表と陳宮の耳に届き意識を引きつけた。
気遣いを込めた話題変換に、霞は感謝を心の内で零し、急いで口元をグイと拭った。
「キヒ、だそうだぜ、ねね。お前が喚こうがオレの決定は覆らねぇけどな」
グッと
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