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乱世の確率事象改変
龍が最期に喰らうモノは
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つまり、袁家を漢の敵として三つの勢力で攻める……そういった展開が思い浮かぶ。
 袁家滅亡後はなし崩し的に漢の再興に漕ぎつけられるだろう。反董卓連合などという軍閥のクーデターに過ぎないモノでは無く、帝の名の元に“正式な連合”が組まれるのだから当然。
 それは『華琳にとって一番なって欲しくない展開』である。覇王はただ、崩壊と新生を目指している為に。

――この女……帝と私に不和を与えるつもりか。よしんばそうならなくとも、次の戦の後に出回る風評効果が大きすぎる。

 心の内を見透かすかのように、劉表は口を引き裂き、目を細めて華琳を見ていた。
 劉表、孫策、曹操の三つで行われる袁家との戦が終われば、形式上、残りは漢の忠臣しかいない事になる。そうなれば劉表の死後に荊州は領地戦争の泥沼と化す。劉表という為政者一人の死が乱世に多大な影響を与え、掻き乱されるは必至であろう。
 誰が初めに平穏を壊すか、そんな牽制の応酬をするのは曹魏と孫呉。華琳が荊州を後回しにするならば、益州に居座っている劉の二人が孫呉との膠着状態を以ってひりつくような睨み合いとなる。軍事的では無く政治的要素も大きく加わるのだ。
 反董卓連合という袁家によって起こされた群雄割拠の様相を、袁家の滅亡によって一時的に終わらせるも、一つの土地の為に長い長い乱世に変わる。
 さらに言えば、帝の心に甘い毒を放り込まれると厄介なことこの上ない。劉備という民の希望と結びつけば、覇王への求心に尽力してきた努力を嘲笑うかのように、華琳の領内にまで“漢”という大国への期待が及んでしまう。
 そうなれば誰が得をするのか……予想に容易い。
 これから先に一番得をするのは劉玄徳になるだろう。声高らかに謳っている理想が、民の心に高祖劉邦を思い出させる為に。
 侵略を行う覚悟などとうに呑んでいる華琳ではあるが、漢の再興などは目指していない。劉表の動きを止めるか、なんらかの対抗策を打たなければ、彼女は帝を傀儡にして覇を進めるモノとして、大陸に広く認識される。

――だが……私はお前の策を崩す二つの手札を持っている。

 獰猛な笑みを浮かべた華琳のアイスブルーは、劉表の燃えるような灼眼を冷たく射抜いた。

 帝を懐柔し、尚且つ傀儡と思わせない為の手札の存在は大きい。
 一つは、劉備とは異なる民にとっての希望の星、華琳がわざわざ大きな犠牲を払ってまで得た黒き大徳、黒麒麟徐公明。
 一つは、たった一人だけ帝を想い、泥沼の魔窟に駆けつけた優しい少女、月。
 二人がいなければ、劉表の策は華琳の領内に多大な影響を与えていたのは予想に難くない。大局を動かす重要な時期が来た時に帝からの鶴の一声が上がれば、如何に華琳が見事に街を治めていようとも不安と疑念、そして不測の事態を招きかねない。
 帝は天そのもの……そう
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