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乱世の確率事象改変
龍が最期に喰らうモノは
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ではこれにて。劉表殿は私の街に幾日か滞在していかれるか? 病の身ならば長旅の連続は負担であろう」

 言葉遣いを崩さず、小石程度の探りを投げた。こちらは歩み寄る気構えがあると暗に示して。
 だが……劉表は口元を引き裂いて、幼子の体躯には不釣り合いに過ぎる妖艶な笑みを浮かべた。

「キヒ……心遣い感謝する。申し訳ないが、一日後に行く所がある為、この街には長く留まっていられない」
「なっ! た……劉表様? そのお身体で何をするというのですか?」

 心配げな声を掛ける陳宮を訝しげに見つめる。華琳は其処に、本心からの心配を見て取った。
 そしてここからは、陳宮との打ち合わせすら行われていない劉表だけの策が来る……そう確信した。
 尚も、劉表は口を引き裂いて……笑った、否、嘲った。

「董卓討伐に参加出来なかったからさ、燃やされても早い段階で復興されたと聞く洛陽に赴いて、劉協様への謁見と洛陽離脱の時に亡くなられたらしい劉弁様への悼辞をな。せっかく此処まで来たんだ、動ける内に、死ぬ前に謝罪しておかないと気が済まない。オレが“曹操殿と同じ漢の臣”だって事を示さないとダメだろ? 大丈夫、お前の事も弁解してやるから」

――やられた……帝との謁見が本当の狙いかっ

 顔を歪めそうになるのをどうにか堪えた。
 復興した洛陽に於いて、政事に関しては華琳の選んだ文官や華琳寄りの者達で埋めている現状である為に問題は無いのだが……拠点を洛陽に移していない事が此処で裏目に出た。
 華琳は帝とは深い接点を持っていない。
 劉協自体は聡明ではあるが、直接的に関わらず、体のいいお飾りの帝としての扱いしかしていないのだ。
 帝の威光を使う……それを華琳は出来ない。否、したくない。だからこそ、本拠地となる街を移さずに洛陽よりも栄えさせる事を選んだ。
 先程の発言は、劉表が躊躇いなく帝を政治利用すると決めている、という事だ。
 思い起こされる利は数ある。

 孫策に対する嫌がらせが主であろう。
 もし、漢の臣である劉表が帝に対して、孫呉に攻められるやもしれない事で頭を悩ませていると匂わせれば、孫策含め軍の重鎮は動かざるを得ない。いや……劉表が帝の元に赴く時点で美周嬢が動かないはずが無い。
 孫呉側が嫌がる事は大きく三つ。華琳が嫌がる事は一つ。
 まず一つ、何を吹き込まれるか分からず、確認の為にもわざわざ洛陽くんだりまで駆けつけて、袁術に反旗を翻して揚州を平定した事を報告しなければならないのは確定。
 もう一つ、他を攻めて力を補強したいのが孫呉側。しかし未だ華琳と戦うわけには行かず、劉表と和平の約定を組まされるやもしれない。
 そして一番最後に、曹操軍と袁紹軍だけで行われるはずの官渡の戦に、孫呉側も加えられるという事態も考えられる。

 
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