龍が最期に喰らうモノは
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所に保存してありますぞ」
頭を下げたまま切り取られた頸を掲げ、陳宮はそれ以上何も言わなかった。
「夏侯淵」
「はっ」
短く名を呼ぶ。先の戦で戦った秋蘭が前に出て、頸をまじまじと確かめた。
「……間違いありません。我が主の領内を乱した黄祖の頸です」
「ご苦労、下がりなさい。
……それで? これしきの事で許されるとお思いか? 私は責任者たる娘の頸を持って来いと言った。咎め無しというのは如何なモノか」
秋蘭が下がるのを待ってから放たれた冷徹な一言は、先程よりも幾分か険を取って。頭を上げない二人をじっと見据えた。
ただ、返された言葉は、華琳の予測の外側であった。
「軍に対する補填分として三万の兵を賄える糧食を贈ろう。それとな……ウチの内部分裂は確定だ。だから、これ以上を望むなら娘か……身柄を請け負っている劉備に直接請求して頂きたいのだがどうか……曹孟徳殿」
華琳と陳宮以外の皆は、劉表の突然の変貌に着いて行けず。華琳は一寸驚くも、位的にはほぼ同等である為に無礼とも言わず、思考を回していく。
――荊州の内部事情は荒れているとは聞いていたが……親が子を切り捨てるか。なるほど、確かにこの女は劉備とは全く別物の旧き王だ。劉表としての責を果たしているのだから、私もこれ以上の要求は行えない。そして劉備を絡める事で意識の幅を広めて私に手数を増やさせた。糧食追加は、謀られて欲を掻いたにしろ、袁家に与したにしろ、“劉表自身”はこちら側だと示す為の見せ札の意味も込めて。いや、娘を守っているとも取れるから、まだ判断は早計に過ぎる。ふふ……中々、やる。
上手い、と思った。
自分が戦わずして他勢力を操るやり方は華琳とて心得ているが、政治屋としての経験値が自分より上なのだと素直に認められる。
勿体ない。それが率直な華琳の感想。
死というモノは生き物として逃れ得ぬ結末である。寿命によってこの龍とは政治的盤上で戦うのは此れが最後となるだろう……競争を良しとする華琳は、才気ある者の消失が、やはり惜しい。
しかし今は敵。まさかこれで終わりなわけが無いだろうと、華琳は意識を切り替える。
「……いいでしょう。病床に伏していたあなたをこれ以上責めはしない。娘の誠意に期待する」
言外に匂わせるのは、自分達は手を回さないからそちらが促し報告しろ、という事。
劉表とは友好的ではあっても同盟では無い関係……華琳はそこに落ち着ける事にした。
ほっと一息ついたのは陳宮であった。曹操軍の軍師達も、思考を回しながらも落としどころに行き着いた為に若干の安堵が表情に浮かぶ。
霞は目を瞑り、わずかに唇を噛みしめて耐えていた。
そんな中……劉表と華琳だけは、未だに見つめ合ったままで鋭い視線を絡めていた。
「
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