龍が最期に喰らうモノは
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「……詫び程度で許されるとお思いか? 失われた民の命と平穏はもう帰って来ない……よくおめおめと我が眼前に顔を出せたモノだな劉表殿」
敬称を付けはしたが、鋭く尖らせた声音は大きな覇気に彩られ、謁見の間にこびり付きそうだった粘り気を取り払った。
直ぐにでも切って捨ててやろうか……そう受け取れる程の威圧感に、陳宮が劉表の隣でゴクリと喉を鳴らした。されども、グッと身体に腹に力を込めて、押されないように口を開いた。
「く、口を挟む非礼をお許しください! 申し開きも無いのです曹操殿……ですが! 我が主は病床に臥せっていた身、漸く身体を動かせるようになったのも先日故、政事に関与出来なかった為に全ての責は劉gにあるのです!」
必死の懇願とも取れる声は華琳の耳を抜ける。続けろ、と命じるかのように小さく鼻を鳴らし、瞳を冷たく凍らせた。
「言うな、ねね。それなら教育出来なかったオレに責がある」
「違うのですぞ! ねねが再三注意したにも関わらず、裏切り者の言を優先し、あまつさえ劉の名を貶めるような行い――――袁家に与するなど……教育以前の問題なのです!
彼の連合での昇進から味を占めて漢の平穏を乱す袁家とは違い、曹操殿は“悪辣なる逆臣董卓”から帝を御救いになり、同じく劉の血筋である劉玄徳殿をも助けたというのに!」
茶番を……と華琳が思ったと同時に、何かを握りしめる音が聞こえた。視線を向けると霞の両の拳が震えていた。瞳に色濃く表れるのは怒り……では無く悲壮。
仲の良かったはずの主を、陳宮は政治的立場上の理由で貶めた。華雄がそういった挑発に乗って死んだ事を知っているはずなのに、自らを嫌悪していた敵と同じに堕としてまで、今の主の利を優先していた。
ああ……と霞は心で慟哭を上げる。聡い霞が分からぬはずも無い。
陳宮の怨嗟はそれほどまでに深く、優しかったはずの彼女を変えてしまったのだと。自分をも傷つける諸刃の剣の如き鋭さを持たせるほど、歪めてしまったのだと。
陳宮が来る、と華琳から聞いていた。どのような事態となっても、何が起こっても口を出しも動きもするなと堅く言いつけられていた。
だから霞は……陳宮から発された言葉にも目を向けず、劉表のみを見据えて震えるだけに留めていた。
先の交渉の責で愛紗に激発した彼女は、もう二度と失態を侵すまいと自身を律する術を高めていた為に。月と詠に出会い、ねねと恋の事に予測を立てられたのも、理由の一つ。
――霞……見事よ。
霞への感情は一筋さえ表に出さず、華琳は心の内で褒めた。
月が生きている事はバレてはいけない。此処で欠片でも気付かせてはならない。民の風評は董卓憎しで埋まり、連合側に有利なように誘導されているのだから。
此処で董卓が存命していて、あまつさえ黒麒麟が関与
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