龍が最期に喰らうモノは
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して以来の感覚が全身を支配した。関靖が交渉に訪れた時の状況に近いが……心持ちは黒麒麟と相対したあの時に近い。自身の全てを賭けて読み切ってみせようと、華琳の頭は冷たく冴えわたって行った。
待つ事幾分、自軍の軍師の一角が視界に姿を現す。
「華琳様、劉表様をお連れ致しました」
「通しなさい」
引き締まった表情で告げる稟は、若干の焦りを見せつけている。
言葉の後にコクリと頷くと、彼女は礼を一つしてすぐに劉表を迎えに行った。
居並ぶ将は春蘭に秋蘭、霞と凪。重厚な威圧を与えられるように。
季衣と流琉、沙和の三人には兵の纏めを任せているためここには居ない。
風がモノ言いたげな瞳でチラと伺ってきたが……事の重大さは華琳とて分かっている。
――官渡の戦は、絶対に外す事の出来ない私が描く乱世の中核。必ず袁家と曹操軍の戦として終わらせなければならない。
小さな足音が二色、耳に響いた。劉表と会うのはこれが初めてだが……それほど大きな身体をしてはいないのか、と僅かな驚きがあった。
――連れてきたのは聞いている。この場に呼ぶことも許した。こちらの軍に於いては……霞の心にケリを付けさせるのも狙いの一つ。月がこちらに引き入れたいのは分かっていても、私の描く道筋にはあなたはまだいらない。
金色の髪が揺れていた。薄緑の二房が跳ねていた。
二人が現れた途端に、謁見の間に粘りつくような気持ち悪い空気が広がった。
小さな体躯に惑わされるはずも無い。まさしく、黒い泥沼を勝ち抜いてきた勝者であろう。陳宮にしても、都の文官を経験して、且つ劉表の影響を短期間に受けた為か見た目の幼さに反して浅さも軽さも無かった。
黒い炎が燃える灼眼は感情が読み取れず、一寸だけ合わされた二つの琥珀には冷たく鋭い知性の輝きが宿っていた。
ぶるり、と身体が震えた。それは歓喜。彼女達が居並ぶ将や軍師にも気圧されなかったから……程度の事では無く、甘く瑞々しい果実を貪り合うような駆け引きが出来るだろう事を、瞬時に理解出来たから。
抑えるのは口元。気を抜けば楽しさに綻んでしまいそうだった。だが、今向けるべきは敵意と殺意。
罪人を処罰する時のように、華琳は二人を冷たく見下した。何も言わず、何も聞かず、挨拶すらしてやらない。今回、先に口を開くのは華琳では無いのだ。
「荊州牧、劉表という。こちらは客分の陳宮。此度は謁見の申し出を受けて頂き、ありがたく……こちらの不手際により領内を騒がせた事、深くお詫び致す、曹操殿」
堅苦しいモノ言いで直ぐに頭を下げた。荊州程の発展した場所を治め、賢龍とまで呼ばれる女が。
わざわざ当主自らが出向いて頭を下げる。それがどれほどの事態か分からぬ劉表ではないだろう。華琳の器が量られている。自分の器を示した上で……。
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