龍が最期に喰らうモノは
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恩に着るのです、龍飛!」
かしこまりました、と一言残して店長は微笑み、静かに引き戸を引いて部屋を後にした。
「……こんな美味いもんが世にあったなんてなぁ」
感慨深く言葉を零した劉表は、銀のスプーンで苺ジャム掛けミルクアイスの最後の欠片を掬い、幸せそうに口に入れた。
「店主の腕あってこそのおいしさではあるとは思うのですが、情報では黒麒麟が教えた大陸の外からの料理らしいですぞ」
ビーフシチューを一口食べてからのねねの一言に、また黒麒麟か……と劉表は眉を寄せた。
その表情から、気遣ってくれていると勘違いしてねねは続きを紡いだ。
「おいしい料理に罪は無いのです。例え殺したい相手が関わっていても。だって……恋殿は……食べる事が大好きだったのですよ」
だから今はねねが代わりに食を楽しむ……心を失ってしまった恋に、せめて自分がおいしいと感じたモノを伝える為に。
しゅんと肩を落とし、フルフルとスプーンを震わせて、ねねはぽつぽつと涙を零した。
彼女の内心を読み取って、劉表は小さく鼻を鳴らす。しかし何も言う事は無い。カチャカチャと食器を鳴らし、目の前に広がる料理を平らげていくだけ。
グイと涙を拭って、ねねは無言のままで注文した料理に手を付けて行った。
食事も一段落した頃合いに、鎮痛薬を水で流し込んだ劉表に向けて、ねねは力強い知性の光を携え口を開いた。
「龍飛、ねねに何をしろというのですか?」
大体予想はしてあるが、直接命じてくれなければ着いて行く……そう彼女の瞳はモノ語っていた。
「あー……まず先に褒めておく。よくやった。お前の合わせ方は中々だったぜ? 張遼への対応もあれでいい。曹操が慰撫するだろうけど、神速の心に楔を打ち込めたから上出来だ。キヒヒ、菜桜の方も文句の付けようがない程の演技だった」
ひらりと躱して、先程の謁見での行いを認め、劉表はねねの頭を撫でた。
くしゃくしゃと頭を撫でられると、ねねの心に暖かさが湧く。出てきた嘗ての友の名に、少しだけ心が痛んだ。
「……それにしても、“悪辣なる逆臣董卓”なんて、よく言えたもんだな」
次いでグサリと、容赦なく心のキズを抉り抜いた。悲痛な瞳を向けたねねの目尻に涙の雫が乗る。
「落ち込むな、礼を言いたいくらいなんだ。お前のその言葉のおかげで状況が読めた。曹操も董卓の真実を知ってるのは確定。張遼が耐えてたのは事前に言ってあったからだろ。
その上で劉協様には深く関わっていない。なら……どういう事だと思う?」
また零れそうになる涙を袖でごしごしと拭いたねねは、大きく息を付いた。
巡る思考は雷光の如く、悲哀の感情になど流されず、ただ速く。
「……帝に反骨心を持たれる事が……曹操の一番嫌がる事なので
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