龍が最期に喰らうモノは
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腰まで届く金髪は黒のゴシックドレスに良く映える。燃えるような灼眼を爛々と輝かせ、幼い見た目で引き裂いた口は妖艶さを際立たせていた。
劉表の足取りは軽い。隣に侍るペパーミントグリーンの髪を二つに括って、手に持った布で包まれた四角い包みを揺らすねねが、少しばかり速足を踏まなければならない程。
二人の前を行くは曹操軍の軍師の一人である郭嘉……真名を稟。ツカツカと歩く彼女は挨拶を交わした後に、案内を致しますとだけ告げて終始無言であった。
「なぁ、郭嘉って言ったか? ねねが疲れちまうからさ、もうちょっとゆっくり行かねぇか? そんなに急がなくても曹操は逃げねぇだろ?」
幾分か嘲りを含んだ声。少女のモノに聞こえるのに愛らしさの欠片も無い。
劉表の提案は挑発かそうでないかギリギリの線。どちらとも取れるが、どう取るか稟に委ねている……否、委ねて“遊んで”いる。
間違いなく格下に見られているのだ。強者の余裕、とも取れる。
入っていた情報では病床に伏していて内政も侭ならなかったはずなのに何故これほどまでに……稟の思考の端に困惑が攻め寄せ始める。されども、稟は華琳の軍師である。冬枯れた池のように、脳髄は冷たく静かだった。
軍師が安い挑発に、低次元な言葉で返すなどありえない。口から出た一言が外交に影響を与え、仕事を与えてくれた主をも自らが侮辱する事になる。
内部の人間に対してならまだしも、外部勢力、それも広い土地を治めるモノに対して売り言葉に買い言葉で返すなど……曹操軍で最も鋭利な知性を持つであろう彼女がするはずも無い。
親友である風はいつの間にかするりと吹き抜ける冷たい北風のような恐ろしさがある。しかし稟は……風の無い冬の朝に似た、全てを突き刺されるような冷たい空気の如き恐ろしさを持っている。
相手を見極め、現状を見定め、己が最善を判断し、主の為に切り返す。一時の感情に左右される事は無く、頭と心は別個として機能を果たす。
ピタリと脚を止めた稟は向き直り、大仰に掌を包んで礼の姿勢を取った。
「これは失礼を。名のある王同士の思いがけない面合わせと致しますれば、文官として弾む心抑え切れずに些か急いてしまいました」
急な来訪を申し出てきたのはそちらなのだと言外に伝える。挑発など意にも介さず、急いでいたのは自分の不備だと、話も華琳からずらした。
恋の部屋に毎日駆けていたねねは疲れるはずも無い。稟のやり方を自分なりに紐解いて劉表の目は厳しく細められた。
――だりぃ、挑発を流しやがった。曹操のガキに心酔してるバカばっかりなら遣り易いってのに……
軍師連中には挑発など効かない、と頭の隅に放り込む。
劉表側としては、作為的にせよ自分達が行った不備の謝罪に来ているのだから、ある程度出来る事が限られてい
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