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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第4話 士官学校 その2
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社会人だった俺が学んだ本当にどうでもいい処世術だ。
「ですから、もしホーランド候補生殿に別のご意見があるのでしたら、是非とも後学のためにお聞かせ願いたいと自分は考えます」

 そこまで俺が言うと、俺達のテーブルを中心に半径数メートルの視線が、“ウィレム坊や”に集中する。まともな答えがないとは言わせないという雰囲気が若干ながら漂いはじめる。特に“ウィレム坊や”にいいようにされている三年生・四年生にその傾向が強い。だったら人任せにしないで自分達で掣肘しろと言いたいところなんだが。

 その微妙な雰囲気を感じ取ったのか、“ウィレム坊や”は明らかに必要もない咳払いを一つ入れてから答える。
「まずは現在の艦隊編成を火力と機動力に優れたものに順次切り替え、個々の艦隊戦において帝国に比し優位に立てるよう整備する。帝国は第二次ティアマト星域会戦での敗北以降、回廊に要塞を建設し、この要塞を根拠地とした戦力の逐次投射による離隔と突進遠征を行っている。その意図が数的優位を基本とした消耗戦である以上、要塞を攻略・奪取することにより帝国の戦略そのものを崩壊させ、同盟軍による帝国領侵攻が可能となる」
「なるほど」
 一見正しいように見える意見だ。帝国軍の戦略意図に関してはほぼ間違っていない。現在のそして将来の同盟軍上層部も同じような見識を持っているのだろう。故にイゼルローン回廊で数多の同盟軍の将兵が屍を晒したのだが。
「しかし、イゼルローン要塞の要塞主砲と要塞外壁の防御力、それに駐留艦隊の機動戦力は軽視できません。ホーランド候補生殿はどうやって攻略しようとお考えですか?」
「圧倒的な火力だ」
 してやったりという笑顔で“ウィレム坊や”は俺に答えた。
「ビーム攻撃であの要塞が揺るがないことは知っている。だが機動力に優れた大火力部隊を要塞主砲の死角に送り込めば、要塞自体を直接攻撃できる」
 ヌフフフフという例の気持ち悪い声を上げて満足そうなホーランドに向かって、俺はわざと神妙な表情を浮かべて沈黙した。俺の態度を見た取り巻きA・Bは満足そうだし、周囲で聞き耳を立てていた三年生・四年生からは明らかに失望の雰囲気が漂っている。

 ここで引き下がっても、俺は別に問題ない。周囲からさらに隔意をもたれるか、それともホーランドの取り巻きとして扱われるか、所詮は他者の視点であって俺が斟酌すべき話ではない。ただホーランドの言っていることが戦略ではなく戦術レベルであることと、過剰な攻撃力重視・補給軽視の問題点を指摘しておかねば、将来貴重な将兵が失われることになりかねない。それだけはどうしても俺の心が許せない。俺は一度小さく腹から息を吐いて“ウィレム坊や”を真正面から睨み付けてから言った。

「大火力部隊を持ってイゼルローン要塞を直接攻撃する。結構なことです。ですが実現するに
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