暁 〜小説投稿サイト〜
浪漫ゴシック
第八章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後

第八章

「けれど。それでも」
「うん、これからもね」
「御願いします」
「こちらこそね」
 柚子の紅の顔に対して修治は優しい笑みを浮かべている。それぞれの顔でだ。お互いに話す彼等であった。そうしてである。 
 三年後柚子が卒業してすぐに新婚旅行に出掛けた二人の話をだ。やはり全く変わらない美貌の京華がだ。カウンターでコーヒーを飲む先生に話しかけていた。
「ハッピーエンドですね」
「これからはじまるけれどね」
「けれどまずはハッピーエンドですね」
「初恋が適ったからね」
 笑顔で話す二人だった。
「いいことだよ」
「ただ」
 しかしとだ。京華は苦笑いと共にこうも言うのだった。
「柚子も。凄いですね」
「凄いって?」6
「小学校一年で。最初に見た時からですから」
「言われてみれば確かに」
 先生もだ。京華のその言葉に頷く。それは確かにであった。
「一途だね」
「そうですよね。凄く一途ですよね」
「その一途さがです」
 どうかというのである。
「修治君と結ばれるものになったんですね」
「そうなるんだね。一途だね」
「この店もです」
 京華は笑いながら店のことを話しはじめた。
「死んだ主人が。譲り受けたお店で」
「前にあった場所でなんだね」
「はい、その頃からこうした外観と内装でした」
「和風の。浪漫の」
「はい、浪漫でした」
 そのだ。浪漫的な、大正を思わせる店だったというのだ。
「私、そのお店が気に入ってお店に通うようになって」
「ご主人と結ばれたんだ」
「そうです。同じですね」
 そしてだ。話を戻すのだった。
「柚子も。私と」
「そうだね。一途なところも」
「私の愛した人は主人だけです」
 京華は亡き夫のことも話した。死に別れて随分と経つだ。その夫のことをだ。
「このお店が。その何よりのです」
「証なんだね」
「二人の愛の。ですから」
 こう話すのだ。先生に。
「ずっと。このお店はこのままです」
「ゴシックだね」
「そして浪漫です」
 にこりと笑って先生に話す。
「それがこのお店です」
「いいね。一途に守っていくのがね」
「はい、それでなのですが」
「それで?」
「どうですか、もう一杯」
 こうだ。先生に話した。
「もう一杯如何ですか?」
「あっ、それじゃあ」
 先生は穏やかな笑みでだ。京華のその言葉に応えた。
 そうしてだ。そのうえでだ。こう京華に述べた。
「御願いするよ」
「はい、それでは」
 先生はそのコーヒーを飲んだ。その味もだ。
 最初に来たその時のままだった。その時と同じく。美味なままだった。
 その味は修治と柚子に受け継がれ。残っていった。二人もまた京華が夫に教えられたその味をだ。伝えていったのである。二人で。


[8]前話 [1] 最後


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ