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黒き刃は妖精と共に
【プロローグ】 化猫の宿
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が僕の過去を知る道しるべとして間違っていなかったとわかったわけですからね。ガセネタがほとんどですけど、こうして本物にあえましたから。これからは気長に探していけそうですよ」

 ありがとう、呟けばウェンディちゃんはとんでもないとばかりに首を横に振った。
 しかし実際そうなのだ。
 唯一の記憶、それの確実性があやふやだった日々に終わりが来た。話しながら、今更ながらその事実が予想以上に僕にとって大きな進展だということが実感できた。
 少なくとも、あるかもわからないものを探す状態から確実にどこかにはあるものを探している状態に変わったわけだ。一番の気がかりが取り除かれたのだ、感謝するのはむしろ僕のほうかもしれない。

「…………」

 ふと会話がとまり、マスターローバウルが何かを考えるように目を閉じてしまった。

「マスター?」

 不安げな声をウェンディちゃんが上げるが、マスターローバウルは動かない。
 寝てるのか、と思い始めたころ。ゆっくりと開かれた瞳は、まっすぐに僕のほうを向いていた。

「クライス、お前さんは世界中を旅しているといったな」
「世界中とまでは行きませんけど……それなりにいろんな場所は行ってきたつもりですよ」
「……どこか一ヶ所にとどまる気はないのか?」
「質問の意図を汲みかねますが……。いままでならいいえ、でしたけど記憶が正しいものとわかった今、どこか大きな町の大規模ギルドに参加したりして集中して情報を集めるのもいいかなぁと」
「なぶら……ならば化猫の宿(ここ)はどうじゃ?」
「はい?」
「ま、マスター?」

 マスターローバウルの言葉が予想以上に奇天烈なものだったせいか、僕と同時にウェンディちゃんも疑問の声を上げた。シャルルも、控えていたメンバー数人も、何を言っているのかといった様子だ。
 ここ、とはもちろんこのギルドのことだろう。
 大きな町、大きなギルド。その二つには、悪いがかすってもいないこのケット・シェルター。
 酒をダバダバと戻した姿を見ていたのでまたちょっとした面白発言かとも思ったが、彼の目は真剣そのものだ。

「ウェンディはお前さんと同じ滅竜魔導師じゃ。そして、自分の育ての親である竜を探しておる。しかし、ワシらは戦う力も無く、ギルドの外へ行くことも少ない。噂を聞いても、ウェンディに付いていける者がいないのじゃ。一人で行かせるには危険な場所であることも多く、今までも何度か見てみぬふりをせざるを得ないこともあった」

 振り向けば、ウェンディちゃんは困ったような笑顔を僕に返してきた。
 事情を追求するつもりは無いが、やはりここのギルドの人々は外界との接点をあまり持ちたくないらしい。
 ウェンディちゃんもまだ一人で長旅させるには危険な年齢だ。そして、竜の情報というものは
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