第五章
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第五章
それと共にだ。こんなことも言った。
「僕みたいにね」
「そういえば部長先月」
「ははは、七人目だよ」
子供の数をだ。笑いながら話すのだった。自分の席の前に立っている律子に対してだ。これでもかという位の笑顔を見せながらのことだった。
「今度はね」
「お子さん七人目ですか」
「子はかすがいだよ」
よく言われていることをだ。部長は言うのだった。
「やっぱりね。多いに越したことはないよ」
「そうですか」
「まあ僕はそこに幸せを見てるから」
子供がいることにだ。そのことについてだった。
「君もその彼と二人で幸せをはじめるんだよ」
「はい、そうさせてもらいます」
こう話してだった。律子は幸せに向かうのだった。
そして結婚式の後で。夫となった春馬と二人になった時にだ。
ふとだ。左目の付け根のその泣きぼくろを擦って。こう言った。
「幸せをはじめるのね。これから」
「今何て言ったの?」
「幸せをはじめるの」
夫となった彼にもだ。微笑んでこう言った。
「そう言ったの」
「幸せをね」
「ええ、はじめるわ」
また言う彼だった。
「二人でね」
「そうだね。それじゃあね」
「幸せになりましょう」
二人で話しそのうえでだった。律子はまたほくろを擦った。そのうえで。
夫にだ。泣きぼくろを見せて述べた。
「あのね」
「あの?」
「このほくろね」
ほくろを見せて。そうして言うのだった。
「幸せになるほくろなの」
「泣きぼくろだけれどそうなんだ」
「そう。このほくろのお陰で私あなたと一緒になれて」
そうしてだ。それからだというのだ。
「幸せをはじめられるのね」
「二人でね。幸せになることをね」
「ええ。はじめられるのよ」
春馬もだ。それを聞いてだ。
妻の顔にそっと手を近付けてそのほくろを擦って。そうして言う言葉は。
「じゃあこのほくろがくれる幸せに感謝しながら」
「はじめましょう」
ほくろがもたらしたのかそれとも律子自身がそうさせたのかわからない。だが彼女はそのほくろに感謝しながらだ。そのうえで晴馬と二人で歩みはじめるのだった。幸せの道を。
泣きぼくろ 完
2011・6・23
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